◆これまでのあらすじ
大手IT企業のマーケティング部課長・桜庭菜穂(30)。5歳下の人事部・澤石蒼人と交際している。半年記念日を迎えて箱根旅行中、蒼人から「真剣な話がある」と言われ――?
▶前回:付き合って半年でやや不穏な空気に…。箱根へのお泊まり旅行で修復しようとしたら
Vol.12 プレゼントに、消耗品を選んだ自分に…
「…真剣な話って?」
私は、浴衣の裾を直しながら、座布団に座り直す。
泊まっている旅館の部屋は、まるで雑誌から抜け出してきたような上等さだ。窓の外では、箱根の山々が深い夜に沈み、かすかに虫の声が響いている。
「え…蒼人、どうしたの?」
私の声は、深刻さを帯びていた。なんとなく、いい話ではないような気がしたから。
「えっと…この前さ、菜穂と結婚についていろいろ話したでしょう?あれから考えたんだけど…やっぱり僕、結婚は無理だと思った。ごめん」
私は思わず息が止まる。胸の奥に、冷たい水がじわりと流れ込んできた感覚がする。
― これ…フラレたってこと?そうだよね…?
なんでこんないい夜に、そんなことを言い出すの…? 私はとたんにしょんぼりしてしまい、落ち込みながら立ち上がった。
“結婚は無理”とはっきり言われた。そのことが、純粋に悲しい。
― 今日は、蒼人も楽しんでくれてる様子だったから安心してたのに。このまま、なんとかいい雰囲気に戻せたらと思っていたのに…。
蒼人が私との時間を楽しめたら、きっと、結婚に対する考え方も徐々に前向きに変わる。そう期待していたのは、独りよがりだったようだ。
「蒼人…そんなこと言わないでほしかった。私は、この旅行を楽しい思い出にしたくていろいろ考えてきたんだよ」
私は部屋の端に足早に移動すると、ボストンバッグから紙袋を拾い上げる。半年記念日に、三越で買った彼へのプレゼントだ。
「…でも、もう仕方ないか。これあげる」
この記事へのコメント
最初から「結婚も前向きに考えるから、もう少し待ってくれますか?」と言えばいいものを😂