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30歳になりまして Vol.12

半年記念日に、彼と一泊旅行。しかし、幸せな雰囲気が一変した“プレゼント”とは?

「え?」

「半年記念日として買ったの」

私は、引きつった笑顔で蒼人に紙袋を渡す。

蒼人は戸惑ったまま「ありがとう」と言って、2つのプレゼントを受けとり、それぞれ封を開けた。


「ノートと、化粧水だ、自分じゃ買わないくらいいいやつだ」

ありがとう、と蒼人がしたお辞儀は、すごく他人行儀に見えた。私はつい自嘲的に笑ってしまう。

「でもよく考えたらなんか…“消えてなくなるもの”ばかりだね」

「え?」

「私も内心、わかってたのかな。私たちはもう終わるって…」

蒼人は黙り込んでしまった。

代わりに、困ったように肩をすくめ立ち上がる。

そして、襖をそっと開けて出ていった。

私は、ぼんやりとした意識のまま、部屋の隅っこにしゃがみ込む。

― 蒼人…。何も、記念日旅行中にふらなくてもいいのに。明日まで楽しく過ごしたかった。

そのとき。

ふと視界の端に、蒼人のスーツケースが映った。サイドポケットから、赤い小さな紙袋が覗いている。

金のロゴ。カルティエ――の文字。

「……え?」

私は思わず近づき、固まる。

― なにこれ。これ、私に渡すつもりだったの?

意味がわからないまま、布団が敷いてある和室に移動した。

しばらく、胸のざわつきが静まらなかった。


翌朝。

旅館スタッフが運んでくれた朝食は、贅沢そのものだった。湯気の立つ味噌汁の香り。甘く炊かれた小鉢の山菜。色鮮やかな料理の数々。

どれも、私と蒼人の間に漂う重い空気には似合わない。

「いただきます」と手を合わせ、無言で箸を動かす。しばらく経ったとき、私は意を決して切り出した。

「ねえ…昨日、蒼人のスーツケースにカルティエの袋が入ってるのに、気づいちゃった」

この記事へのコメント

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No Name
箱根にスーツケースで行ったんだ? 電車だから? にしてもこれ見よがしにサイドポケットからはみ出したカルティエのショッパー? 怪しいなぁ中身は空か....
最初から「結婚も前向きに考えるから、もう少し待ってくれますか?」と言えばいいものを😂
2025/07/23 05:2225Comment Icon2
はい破局!
彼の言い方も悪い。この二人は結局お互いが自分の事しか考えてないからこうやってすれ違う。
2025/07/23 05:1322Comment Icon2
No Name
ほら見た事か社内に公表した直後に破局。 会社で気まずいったら。あの噂大好き会社の人達だから「何で別れちゃったんですか?」とかわざと聞いてくるよね。そしてお化粧室では「あの人の結婚圧に耐えられなくて澤石さんからフったらしいよ」「うわーきゃー」「やっぱりね、じゃ私立候補しちゃおかな♡」 的な会話を聞いて悔しがる菜穂。 どうでもいい。
2025/07/23 05:3621
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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