2024.10.21
SPECIAL TALK Vol.121
「運動ができても中途半端」。転機は突如訪れた
金丸:スポーツって、楽しくないと続けられないじゃないですか。どこかに楽しさを見出すからこそ、練習にも打ち込める。だけど、山本さんの場合、そういう競技がなかなか見つからなかったということですか?
山本:そうですね。でもスキーやスノボは楽しかったんですよ。親がスキーをやっていて、年に1、2回、長野とかに家族旅行で連れてってくれました。だから僕も小学生でスキー、中学生からブームに乗ってスノーボードを始めたんですが、部活と違って頑張らなくていいからすごく楽しくて。
金丸:遊びだと全力で楽しめる。ここまでのお話だと、アスリートとは思えませんね(笑)。
山本:本当に(笑)。僕はメンタルが弱いというか、自分に甘いんです。「もうこのくらいでいっか」って、練習をついつい切り上げてしまう。それじゃあ強くなれないですよね。
金丸:これだけの成績を残してきて、メンタルが弱いなんて、信じられません。
山本:陸上を通じて、メンタルのコントロールの仕方を学びました。それでようやくスポーツ選手の仲間入りができたと思っています。ほかにも、以前はものすごく緊張するたちで、人前でしゃべるのがすごい苦手だったんですが、それもトレーニングしてどうにか克服しました。
金丸:陸上を始めたのは、いつですか?
山本:事故のあとです。
金丸:事故のお話を伺ってもいいですか?
山本:もちろんです。高校3年生に上がる直前の3月、春休みに原付きバイクで事故を起こしました。右コーナーのガードレールに突っ込んだんです。
金丸:結構飛ばしていたんですか?
山本:いや、普通に運転していました。ただ、風邪を引いていて、その日は午前中に病院に行って、薬を飲んだあとに乗っていたんです。
金丸:あー、それは……。
山本:それで、一瞬記憶を失うというか、何も考えていないタイミングがあって。パッと目を開けたら目の前がガードレール。ハンドルを切ったところまでは覚えていますが、その次の記憶はバイクと一緒に倒れていて、足が熱い。立ち上がろうと思っても、立ち上がれない。
金丸:周りに人はいたんですか?
山本:通りすがりの小学生が救急車を呼んでくれたみたいで。
金丸:その時、足はどんな状態だったんですか?
山本:膝下をガードレールの支柱にぶつけて、粉砕骨折でした。
金丸:最初から「切断以外にない」という状態ではなかったんですね。
山本:事故が3月の上旬で、切断の手術が決まったのが、4月の2週目ぐらいです。だからちょっと時間がありましたね。足がパンパンに腫れて、さらに菌が入ってしまって、ずっと40℃くらいの熱が出て。
金丸:それはキツい。
山本:そうこうするうちに血管が詰まり始めて、「このままだと足が腐り始める。切らないと死んでしまう」と。だから、切る決断は簡単だったんですよ。死にたくない。生きたいですから。
失うものではなく、できることを考えた
金丸:簡単におっしゃいますが、当時の山本さんは高校生でしょう。相当ショックだったのでは?
山本:でも、それをぶつける相手がいないんです。運転したのも、事故ったのも自分。「なんでこうなっちゃったんだろう」ということはもちろん考えたけど、自分がすべてやってしまったことだったから、逆にそれが良かったんだと思います。それに、足を失っても、あらゆることができなくなるわけじゃないので。
金丸:ご家族はどんな様子だったんですか?
山本:周りに足をなくした人なんていなかったから、ショックだったと思います。父はそこまでじゃなかったけど、母は僕がいないところで泣いていたとあとから聞きました。最悪、自分たちが面倒を見ればいいや、と思っていたみたいです。
金丸:なるほど。面倒を見るどころか、世界的なアスリートになるなんて、その時は誰も思っていなかったでしょうね。
山本:アスリートになるとは、僕自身も考えていませんでした。でも、かなり早い段階から、スポーツはやりたいと思っていました。手術を2回受けたんですが、膝があったほうがいいということで、最初は膝の下を切りました。でも状態が良くならず、膝の上から切ることに。その時、先生に「切ってもスポーツはできますか?」と聞いた記憶があります。
金丸:やっぱりメンタルが弱いなんて、信じられません。むしろ、すごくポジティブじゃないですか。
山本:看護師さんたちからも、そう見られていたみたいです。「全然へこんでないけど、大丈夫なのかな」と(笑)。
金丸:「全部自分が引き受けるしかない」と悟って、失うものやできなくなることを嘆くのではなく、できることを探そうと、気持ちを切り替えたからですよね。私が同じ境遇になったとしたら、きっと誰かのせいにしていたと思います。「風邪をうつしたやつが悪い。いったい誰だ」って。
山本:そこまでは考えませんでしたね(笑)。これまでいろいろとスポーツをやってきたから、義足になってもスポーツはしたい。そのなかでも、一番好きだったスノーボードがしたい、って思ったんですよ。
金丸:先生はなんとおっしゃったんですか?
山本:「走るのはできるかもしれないし、スキーをしている人もいる。だけど、スノーボードはわからない」と。当時は、スノーボードはまだパラの種目でもなかったし、情報もあまり出回っていなかったし。
金丸:でもスキーができるんだったら、スノボもできそうですよね。
山本:それに、その後、スノーボードのショップの店長さんが義足のプロスノーボーダーを教えてくれたんです。アメリカの選手が雑誌に載っていて、「実際にプロがいるなら、僕にも絶対できる!」と自信を持つことができました。
金丸:ちなみに、義足を作ったとして、すぐに歩けるようになるものですか?
山本:僕の場合は、杖なしで歩けるようになるまで3ヶ月くらいかかりましたね。
金丸:それでも負荷のある動きは難しそうですが。
山本:そうですね。階段を下りる時は片足ずつでした。
金丸:やはり日常生活に復帰するまでは、相当な時間がかかるものなんですね。
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