2024.06.25
都心でなくとも、いまや上質なレストランは東京都内のあらゆる場所に点在している。
それは、自分のスタイルを大切にするシェフが増え、より愛着のある街で店を開くことが普通になりつつあるからだろう。
今回は、浅草、都立大学、高円寺、本所吾妻橋など、都内の住宅街にある人気店をご紹介。各レストランの素敵なコースとともにチェックしよう!
“観音裏”のグルメ通りの一角に食通が集う話題の和食店がある
下町の美食スポット“浅草観音裏”。
静かな街並みに名店が点在するこのエリアで、密かに食通らの注目を集めているのがここ『食堂うゆき』だ。
日替わりコース一本という潔さに感じる店主の確かな実力
全10品から成るコースは¥13,200と、高騰化する和食店が多い昨今にあって実に良心的。
だが、人気の理由はそれだけではない。
シンプルを身上とするご主人・金澤祐樹さんの美学が反映された質実な料理が、常連客を惹きつけてやまないのだ。
例えばお椀。蓋を開ければ目に入るのは初々しい緑一色。その下には蛤を忍ばせてあり、春の息吹が舌に伝わってくる。
殊更に高級食材を使わずとも、春ならではの出合いものの味を堪能させてくれる。
「仕込みは必要最低限に抑え、できるだけお客様の顔を見てから作り始める」と金澤さん。
丁寧な下ごしらえに加え、焼く、煮るなど一見単純そうな調理を突き詰めることで、清廉にして細やかな美味しさを生みだしている。
「蕗と白魚の天ぷらの手巻き」。
蕗のとうの柔らかなほろ苦さに香ばしい白魚の天ぷらがマッチする。
「からすみ蕎麦」。麺つゆで和えた蕎麦に自家製のからすみがたっぷり。
すべて「おまかせコース」(¥13,200)より。
和食とイタリアンでの修業経験を生かしたその料理は、素材の味に寄り添う味わいが信条だ。
目黒通りから一本入った静かな緑道沿いに、こぼれる温かな美食の灯火
「ニューレトロイタリアン」をコンセプトに、今年1月、都立大学駅近くの路地裏にひっそりとオープンした『marble』。
懐かしさと新しさを融合させたというメニューに目をやれば、「スパゲッティ ボンゴレビアンコ」といったスタンダードな料理もあれば、冷たいパスタかと見まごう「白センマイとクルミのサラダ」や千切りにしたジャガイモの独特な食感が後を引く「じゃがいもジュリエンヌとカラスミレモン」のような遊び心溢れるひと皿まで、バラエティ豊かなラインナップに思わず心が躍る。
料理はすべて2名分だが、1人前から注文でき、冷菜、温菜、パスタ、メインからひと皿ずつを選んでオリジナルのコースを組めるのが魅力。
また、メニューは「NEW」と「RETRO」に分かれていて、気鋭の皿で固めるも良し、馴染みの料理を味わうも良しな自由さも新しい。
既視感なき料理に挑戦する「NEW」なら¥5,700で洗練コースが完成!
下ごしらえも丁寧な白センマイは、シャキシャキと歯応えも軽やか。クルミとともにバジルが香るジェノヴェーゼソースで和えて仕上げる。
「白センマイとクルミのサラダ」¥900。
ニンニクで炒めたものと揚げたもの、2種類の千切りジャガイモをトッピング。異なる食感とからすみの旨みがワインを呼ぶ。
「じゃがいもジュリエンヌとカラスミレモン」¥1,000。
一見、リゾットと見まごうパスタはサルデーニャ島の「フレーグラ」。タコの煮込みとオリーブオイルの旨みにミントの香りがアクセント。
「フレーグラ タコの煮込み」¥1,500。
オーストラリア産のラム肉は、シンプルに塩、こしょうで味付け。炭火で焼き上げた香ばしさとクミンの風味が食欲をそそる。
「ラムの串焼き ラムラグーのニョッキ添え」¥2,300。
なじみのある料理が並ぶ「RETRO」なら¥5,800で満腹コースが完成!
ホルモン店を系列に持つ同店だけに内臓系に自信あり。軽く火を通した新鮮な牛ハツに添えるのはピエモンテ州伝統のツナソース。
「牛ハツ冷しゃぶトンナートソース」¥1,100。
牛の第二胃袋と第四胃袋を、カーボロネロ(イタリアの黒キャベツ)や白インゲンとともに、白ワインで煮込んだイタリアの伝統的な一品。
「トリッパとギアラの煮込み」¥1,200。
アサリと白ワインの旨みが染みたパスタには、グラニャーノ産のスパゲッティを使用。噛み締める程に小麦の風味が広がる。
「スパゲッティ ボンゴレビアンコ」¥1,400。
ローマの郷土料理ポルケッタをバラ肉でアレンジ。ローズマリーを巻き込み、1時間半ほどロースト。
「豚バラ肉 香草焼き」¥2,100。※写真はすべて2名分、価格は1名のもの。
◆
一品¥600〜の気軽な価格設定も見逃せない。
そこには「日常生活に溶け込んだ普段使いできる店として気軽に来て欲しい」という渡部武志オーナーの思いが込められている。
住宅街へと続く道に潜む地下の和食店が、街の空気を大人に変えた
「居酒屋以上、割烹未満」。そんな日常使いの和食を楽しめる、願ってもない一軒が『高円寺 動悸』だ。
囲炉裏を囲むようにカウンター席が設けられたオープンキッチンの店内は、ライブ感たっぷり。
至ってざっくばらんな雰囲気ながら、料理はまさに割烹はだし。
美食に慣れた大人にこそ刺さる、食べるほどに「ととのう」料理
ミシュラン星付きの和食店『うち山』出身のメンバーが開発サポートするメニューは、お通しの「焼き胡麻豆腐」や「煮穴子とカリフラワーの揚げおろし」などの手の込んだ一品が印象的だ。
この店の魅力はそれだけではない。「食べると勝手にととのう居酒屋」をテーマに、分子栄養学からアプローチした料理は、グルテンフリー、低糖質といずれも健康に配慮したものばかり。
和食の要である出汁にも、栄養価の高いボーンブロスを用いる。
「現代人は糖質過多で栄養が偏り気味。それを、普通に食べて自然に解消できるメニューを開発しています」と店長の福田佑樹さん。
左上.「カリフラワーのムースと生雲丹」。ムースには大豆由来の生クリームを用いている。
右上.「お造り」。左から時計周りにブリ、まぐろと燻製海苔酢、ヒラメ。
右下.「大山地どりの一夜干し唐揚げ」。揚げ油は体に優しい米油を使用。パリっと揚がった皮も美味。
左下.「腸粉」。中にはエビを巻いた揚げ湯葉が。
炉端で焼く原始焼きから創作料理まで品数も豊富。コースは¥4,000からと手軽に味わえるのも心強い。
スカイツリーのふもとへと、東の美食家たちが夜な夜な馳せ参じている
スカイツリーを背に、隅田川方面へ。スーパードライホールのオブジェを至近に感じながらも少し歩けば、そこは下町。ゆるやかな雰囲気が漂う住宅が連なる。店の灯が点るのは、そんなのどかな街の一角。
並びには赤提灯の下がるちゃんこ店と居酒屋、というのがまた下町らしくて到着した瞬間、和んでしまう。
「サカエヤ」にも認められた店主の美しき火入れに陶酔する
だが、『ÉTAPE』で味わえるのは、そんな立地とは真逆のしっかりとした骨格を持った精悍なフレンチだ。
本場で8年間、経験を積んだ河村神賜さんが供する「おまかせコース」は、クラシックをベースにしたメニューが構成の要所を固め、揺るがない。
メインの肉もまた然りで、アロゼで肉汁を閉じ込めたフィレとフォンドボーソースの組み合わせは、正統なる味わいを実感させてくれる。
河村シェフはフランスから帰国後、『IKU青山』に勤務。そこで料理人垂涎の滋賀県の精肉店「サカエヤ」の肉に出合い、衝撃を受けたとか。
コースでは和牛のフィレ肉を供するが、アラカルトでは「サカエヤ」から仕入れた牛のローストを楽しめる。
それでいてアミューズには独創的なひと皿も挟まれ、緩急もしっかり。
初めての客でも安心してコースに身を委ねられる。
肉の脂をさっぱりと洗い流す自家製の「ハーブのアイス」。
絶大な信頼と料理を引き立てるワインから生まれる満足感を、とくと味わってみてほしい。
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