東京には、それぞれその街を象徴するスポットがある。
洗練されたビルや流行の店、心癒やされる憩いの場から生み出される、街の魅力。
これは、そんな街に集う大人の男女のストーリー。
▶前回:元カレと曖昧な関係を続ける24歳女…。思いを断ち切るためにしたコトとは
Vol.10 『毎日そばにいたいと思える人/代官山T-SITE』悠(37歳)
「おお!アルノー。元気だった?」
「悠!元気だよー。日本で会えて嬉しい」
「アルノーが日本で就職するとはね。俺も嬉しいよ」
4月も下旬になり、新生活ムードもようやく落ち着いてきた東京。
昼前の代官山駅で、学生時代からの友人・ドイツ人のアルノーと落ち合った悠は、人目を憚らずに満面の笑みでハグを交わした。
音楽を愛するふたりの出会いは、19年前。毎年7月にベルギーで開催される世界最大のEDMイベント『Tomorrowland』の、初回開催での事だった。
意気投合して以来、メールや電話でちょくちょく音楽情報の交換をしたり、悠がヨーロッパを訪れる際に落ち合ったりする友人関係が続いている。
昨年夏のベルギーでの楽しい思い出をひとしきり振り返りながら、アルノーと悠は肩を並べて代官山T-SITEを歩く。
アルノーが日本での就職を決めた理由は、自身がフリーで楽曲を作ったりライブをプロデュースしていた縁で、憧れていた日本の音楽レーベルから声をかけてもらったことなのだそうだ。現在は来年のフェスに向けて、海外アーティストを日本へ招致するために奔走しているのだという。
「ずっとラブコールを送っていた日本のレーベルに、ようやく声をかけてもらったんだ!彼女も一緒に日本へ来たよ」
「おお、美玲(メイリン)か。一緒に来たってことは…」
「いや、結婚はしてないよ。でも、彼女は僕にとって大切なパートナー。毎日一緒にいたいんだ」
「相変わらず仲がいいな。美玲にも会えるのを楽しみにしてるよ」
会話を弾ませながら蔦屋書店を通り過ぎようとした時、悠の背後からふいに声がかけられた。振り向くと、よくシェアオフィスで顔をあわせる仕事仲間だ。
「お!悠。今日は仕事オフなの?」
「おう、友人とランチの約束してるんだ。こいつ、アルノー。ゆっくり話して、夕方にはラウンジに戻るかな」
CGアーティストとして映像制作の分野で成功した悠は、フリーランスとして独立した10年前から、中目黒に住んでいる。
家からほど近いここ代官山T-SITEは、施設内のシェアラウンジを仕事場として利用することも多く、界隈でちょくちょく知り合いに会うのだった。
独立して仕事をしていたり、好きな時に休みをとって一人旅をしたりとひとり行動が主なためか、一匹狼のような雰囲気を持つ悠。
しかしどこにでもひとりで顔を出すので、友人は少ないようで多い。
男女問わず子どもから老人、外国人までもが自然と引き寄せられてくるのだ。
初対面の人が毎度驚くのは、その見た目と年齢のギャップである。
悠の中性的な顔立ち、きめの細かい肌、柔らかい髪の毛といった姿は一見して学生のようだが、実年齢は37歳だ。
この記事へのコメント
最後まで読んだけどよく分からんかった。