2024.03.12
今日、私たちはあの街で Vol.5慎吾がオフィスのエントランスへ向かうと、後ろから声がする。
「前園さーん!」
そこにいたのは麻人だ。関西オフィスで共に切磋琢磨した、可愛い後輩。
慎吾の辞令を見た麻人は、局長に自ら掛け合い、慎吾の後を追って春から東京オフィス所属となったのだった。
「おお!麻人。ついに東京に来たのか」
「はい。来月からまたお世話になります!今日は入館証を受け取りに。あれ…前園さん帰るんですか?」
「ああ、予定もないしな」
「よかったら一杯どうですか。僕の東京異動祝いに」
思いがけず慎吾に会えたことが嬉しかったのか、控えめな麻人がめずらしく調子の良いことを言う。
慎吾は久しぶりに自分が必要とされているように感じ、胸が熱くなった。
「はは、行こう行こう。どこがいい」
「虎ノ門はどうですか?」
麻人曰く、虎ノ門ヒルズステーションタワーにできた『T-MARKET』が、東京の注目店を集めた最新グルメスポットとして話題だという。
「東京の夜らしくていいな。行ってみよう」
◆
「あ!ここ、恵比寿にある焼き鳥の名店の姉妹店らしいです」
カウンターが空いたタイミングで、麻人と慎吾は運良く『鍈』に入ることができた。
すると上着を脱いで一息ついた麻人が、隣の席を気にしている。
「あれ…麗奈と紗耶?」
「麻人!今大阪じゃなかった?なんで東京にいるのー」
3人の顔がパッと明るくなり、カウンター席が賑やかになった。
「来月付で、東京に異動になったんだ。こちら、大阪時代からお世話になってる前園さん。前園さん、僕の同期のふたりです」
「はじめまして」
慎吾と麗奈・紗耶は、同じ会社という安心感もあってか、初対面ながらどこか親しみを含めた声色で挨拶を交わした。
乾杯の後、4人は自然な流れで仲良く酒を飲み始めた。
「鶏出汁おでん」や「鶏そぼろ丼」など、飽きさせない料理の数々と共に、心地よく時間が過ぎていく。
食事もひと段落した頃、時計を見た麗奈が慌てて言った。
「わ、もう22時!すみません、私仕事が残ってて…。先に失礼しますね」
「麗奈、私も一緒に行くよ。前園さん、今日はありがとうございました。会えてよかったです。麻人もまたね」
「こちらこそ、これからよろしく」
手を振る麗奈と紗耶を見送りながら、慎吾は人と人との繋がりの大切さを実感していた。
― 美味いものに、気が置けない後輩。いい夜だな。
「前園さん、なんか嬉しそうですね」
「はは、今日は麻人にも会えたし。久しぶりに楽しくて」
「そうですか!じゃあもう一軒行きますか」
会計を済ませて2軒目に移ろうとした時、麻人は大きなバッグが残っていることに気づく。
「あれ、これ…ゴルフクラブだ。紗耶が最近ハマってるって言ってたんで、彼女のかな」
麻人が紗耶に電話をすると、確かに彼女の忘れ物だという。
明日から月末までしばらく大阪に戻る麻人に任せるわけにもいかず、慎吾が預かることになった。
帰宅後、慎吾は紗耶からチャットが来ていることに気がついた。
『前園さん、今日はありがとうございました。バッグを預かっていただいたようで…ご迷惑おかけしてます。週明けにオフィスで引き取ってもいいですか』
『こちらこそ、楽しかったです。では月曜にバッグを渡すので、帰り際にでも連絡ください』
週明けに紗耶に会えるということに、悪い気はしない。
オフィスでは四面楚歌で気が重い日々だが、次の月曜は少しだけ出社が楽しみになった。
― それにしても大きな荷物…。ゴルフって道具を揃えるだけで大変だよな。これを持ち歩くとは、よほどゴルフが楽しいのかな。
接待や重役の自慢話に付き合わされるのが嫌で、今まで慎吾はゴルフを避けてきた。
しかし最近は、カジュアルにゴルフを楽しむ時代のようだ。
― 俺でも、始められたりするのかな…?
気がつくと慎吾は、ほろ酔いの心地よい気だるさのなか、なんとなくゴルフ動画を見てみたりしているのだった。
ゴルフバッグなんて大きなもの忘れるなんて普通有り得ないし、そんなあざとい女に引っかかりでもしたら身の破滅だっかかもしれない。
だいたい重いのに届けてやる必要なんてないよ、そんな大きな荷物、飲食店も取りに来るまで預かってくれると思うし。
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