2024.02.13
今日、私たちはあの街で Vol.1後日のやりとりで、涼の拠点とするスタジオが南青山にあることがわかった。
広尾にある可憐の自宅からは徒歩圏内。「ご近所同士、美味しいものを食べよう」という話になるのは、ごく自然な流れだった。
待ち合わせは、気取らないイタリアン『アントニオ南青山本店』。ビールで乾杯を済ませると、会話に花が咲きはじめる。
「先日はパーティーでのお仕事、おつかれさまでした」
「ありがとう。可憐さん、敬語じゃなくていいですよ。僕の方が若輩者だと思うので…」
話を聞くと、涼はまだ23歳。16歳で高校留学のため米国に渡り、アート・サイエンスの大学で写真を専攻。春から東京でカメラマンとして仕事をしながら技術を磨いているということだった。
「16歳で渡米なんて行動力がすごいね。落ち着いているから、年上かと思っちゃった。それじゃ、お互いに敬語なしにしよう」
ランチをしながら簡単に互いの話をしたあと、午後に撮影があるという涼を可憐は見送った。
◆
東京に拠点を移したばかりの涼は、仕事仲間以外に話し相手がいないらしく、ちょこちょこと可憐に連絡をしてきた。
「元気?」「ご飯は食べた?」という小さな連絡。
可憐は、涼が自分を気にかけてくれていると感じ嬉しくなる。
「ちょうど夕飯の準備してた。よかったら、仕事帰りに食べていく?」
いつの日かそんな返事をしてから、涼はよく可憐の家を訪れるようになった。
料理をすることが趣味の可憐と、東京に友人の少ない涼。ふたりが時折食卓を共にするのは、気がつけば日常のひとつになっていた。
「付き合おう」という言葉は、どちらの口からも出たことはなかった。
ただ可憐は、涼との時間にひたすら居心地のよさを感じていた。
昼も夜もたわいなく連絡をくれて、美味しそうに手料理を食べ、無邪気に撮影や仕事のエピソードを話し、時にはベッドを共にする。
すやすやと自分の隣で眠る涼の寝顔を見ながら、可憐は微笑む。
才能を発揮し懸命に仕事をしている涼の、心のよりどころになっている。そんな実感によって、可憐の自尊心は限りなく満たされていった。
数日経ったある日、涼がお酒を飲む前に言った。
「可憐さん、ひとつだけ言っておきたくて」
「どうしたの?」
「…僕、誰かとお付き合いするつもりはないんだ。今はカメラの腕を磨くのに大事な時期で、仕事も断りたくない。チャンスがあれば世界中どこでも行きたい」
「…」
「パートナーがいることで制限ができたり、相手を振り回したりしたくないんだ」
涼からの突然の忠告に、足をすくわれた気がした。
― 「心のよりどころ」なんて思ってたのは、私だけだったんだ。
26歳で、これまでいくつかの恋愛を経験してきた可憐には、わかっていた。このタイミングで自分の好意を伝えたり、無理な説得で涼の考えを変えようとしたりするのは、何の意味もなさない。
明確に、距離を置かれたのだ。
ショックを受けたことを、必死で隠す。絞り出したのは、綺麗さを取り繕っただけの、心にもない言葉だった。
「うん…理解できるよ。応援する」
「可憐さん、ありがとう」
ふたりは乾杯し、いつものように笑顔で料理を食べ始めた。
◆
12月下旬に差し掛かるころ。涼からの連絡の頻度が落ちていることに可憐は気がついた。
涼いわく、この時期は多くのアパレルブランドが来季コレクションの仕込みに入る繁忙期だという。
可憐は少し寂しい気もしたが、その気持ちには蓋をした。
― 付き合ってるわけじゃないんだから。私は私で、楽しく過ごさないと…。
そう気持ちを律しつつも、涼からの「落ち着いたら連絡する」というメッセージを見返しては、ホッとする自分に気づく。
気晴らしに東京を離れようと、数年ぶりに広島へ帰省した可憐は、牡蠣に穴子にハマチと冬の広島グルメを姉夫婦と共に大いに楽しみ、晴れやかな心で年始を迎えたのだった。
◆
涼とようやくゆっくり一緒に過ごすことができたのは、年が明け日常が戻ってきた頃。表参道のカフェで、可憐も涼もオーストリア流ホットコーヒーを注文した。
「涼くん、仕事は落ち着いた?」
「やっと一段落。また来週から、バレンタインデーに向けて忙しくなるよ」
「あっという間にそんな季節ね」
「僕、日本のバレンタインデーに縁がなくて。日本の事情を知ると、なんだかドキドキする季節だね。ニューヨークでは、親しい人に感謝を伝え合う日だったから」
「日本のバレンタインって、独自に発展したみたいね」
「男としては、女性に愛を伝えてもらえてチョコレートまでもらえるなんて憧れるけどね。可憐さんは、今年はどうするの?」
― どうするって…?
突然の質問にすぐに答えることができず、可憐は言葉を濁した。
「まだ…考えてない」
「そっか。じゃあ、日頃の美味しい料理のお礼として、食事でも行こうか。お店探してみるね」
「ありがとう。ニューヨーク式だね、嬉しいな。楽しみにしてる」
あなたより自分愛する事が出来るという歌詞の曲 “Flower” が浮かんだ。この前グラミー賞取ったばかりマイリー・サイラスの。参考したのかな😊
【今日、私たちはあの街で】の記事一覧
2024.05.07
Vol.12
「結婚はムリかも…」34歳女が、6年付き合った年収4,000万の外銀男との別れを決断したワケ
2024.04.30
Vol.11
「あの子とは何でもない」と言い訳されたけど…。彼氏が他の女性と出会っていた28歳女の末路
2024.04.23
Vol.10
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.09
Vol.9
元カレと曖昧な関係を続ける24歳女…。思いを断ち切るためにしたコトとは
2024.04.02
Vol.8
慶應の音楽サークルで、三角関係に陥った男。親友の彼女を好きになってしまった結果…
2024.03.26
Vol.7
帰国子女で外資系化粧品メーカーに勤める36歳女。日系企業に転職し直面した現実とは
2024.03.19
Vol.6
無意識にオトコを勘違いさせてしまう28歳女。上司から届いた、妙な親密なLINEの文面とは
2024.03.12
Vol.5
妻子を大阪に残して、東京に単身赴任中の39歳男。ある夜、紹介された年下美女と意気投合してしまい…
2024.03.05
Vol.4
上智の院まで出たのに、就活は惨敗。不本意な会社に内定し、働く前から転職を考え始め…
2024.02.27
Vol.3
「息子はインターに!」と熱望する36歳女。しかし、離婚し年間300万の学費が払えず…
おすすめ記事
2017.01.21
結婚願望のない男
結婚願望のない男:死ぬほど好き。ハイスペ彼氏から受けた、30歳誕生日の強烈な洗礼
2018.06.04
Fragile Love
Fragile Love:10歳年下美女とのキュンキュンLINEに夢中なオヤジ。突如下った天罰とは
2021.02.25
マッチングアプリの答えあわせ【Q】
マッチングアプリの答えあわせ【Q】:女性に何かマズいこと言ったかも?男がフェードアウトされた理由
2019.01.16
東京女、27歳
「もう1度やり直したいんだ…」3年前に別れた男からの想定外の告白に、30歳女が抱いた違和感
2019.11.19
妥協婚
「夫から触られると、ゾッとする 」。人としては好きでも、男として夫を見られない妻の懺悔
2018.05.20
愛しのドS妻
愛しのドS妻:深夜の修羅場…ドS妻の追及に思わず吐いた、男の苦しすぎる言い訳
2018.10.20
オトナの恋愛論~宿題編~
「お前のことが、好きだ」。ストレートな愛の告白に、どうしても女が頷けなかった予想外の理由
2021.03.01
愛して、もう一度だけ。
「元サヤなんて絶対に無理…」復縁を狙う女が、元彼とのデート後に絶望したワケ
2017.08.08
東カレデート対決
東カレデート対決: 鋼メンタルの外コン男 VS 超絶美人CA。初対面お食事デート実況中継スタート!(前篇)
2015.06.07
ドクターたちの恋愛事情
勤務医の医者は、「彼氏」としての価値は低い?
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント