麻布には麻布台ヒルズ。銀座には、GINZA SIX。六本木には、東京ミッドタウン…。
東京を彩る様々な街は、それぞれその街を象徴する場所がある。
洗練されたビルや流行の店、心癒やされる憩いの場から生み出される、街の魅力。
これは、そんな街に集う大人の男女のストーリー。
Vol.1 『春への希望/麻布台ヒルズ』可憐(26歳)
「わぁ…カメリアの花びらみたい」
11月某日、麻布台ヒルズのあるレストランで開かれたレセプションパーティー。
一眼レフの小さな液晶モニターに映る華やかな画に、可憐は思わず引き込まれた。
花のように美しく見えたそれは、この日のために用意された、苺やトマトを使った前菜だ。
感嘆の声を漏らしながら、目の前に置かれた料理と写真を何度も見比べる。
液晶を見せてくれている涼の照れくさそうな微笑みを前にして、可憐は不思議な感動を覚えていた。
― 彼の瞳には、世界がこんなふうに映っているんだ…。
◆
可憐が知人に招待されて出席したこのパーティーに、主催者側のカメラマンとして参加していたのが涼だった。
「今夜はおひとりで来たんですか?」
「いえ、友人と一緒に来たんですけど…。オーナーに挨拶したあと昔話で盛り上がっていたので、私は先に席に着くことにしました。ウエイターの方に、料理の紹介を聞くのも楽しみで」
ひとりでテーブルに着いている可憐を気にかけてくれたのだろう。人懐っこく声をかけてくれた涼は、撮ったばかりの写真を気さくに見せてくれる。そのなかでも最も印象的だったのが、花のような前菜の写真だった。
グルメが趣味とはいえ業界人でもなく、虎ノ門の専門商社で貿易事務をしているいち会社員の可憐にとって、涼の気遣いは嬉しかった。
東京都心のグルメ界隈のコミュニティーは、笑ってしまうほど狭い。
話題の店は紹介なしに予約を取ることが難しく、高価格帯であることも多い。それでも行ってみたい、美味しいものを食べたいという意思表示をしていると、紹介が紹介を呼び、美食家同士はいつのまにかつながっていく。
そんな経緯で可憐も、グルメ仲間の一人からレセプションパーティーに招待してもらっていたのだが、いくつかの日本初上陸レストランがオープンするとあり、美食家たちの注目を特に集めていた麻布台ヒルズだ。
いざ来てみると、場の雰囲気は特別華やかで、少し気後れしていたところだった。
「あーあ。僕は今夜は撮る専門だから残念。美味しいお料理、楽しんで」
「お写真を見せてくださり、ありがとうございました。今日のお写真の公開、楽しみにしていますね」
「ありがとう!よかったら…」
別れ際の連絡先交換は、新たな出会いを歓迎するパーティーの場では、ありふれた行為だ。
特別なことではないとわかっていながらも、可憐は胸を躍らせる。
― また、会えたらいいな。
可憐の願いは、パーティーから1週間も経たないうちにかなった。
この記事へのコメント
あなたより自分愛する事が出来るという歌詞の曲 “Flower” が浮かんだ。この前グラミー賞取ったばかりマイリー・サイラスの。参考したのかな😊