SPECIAL TALK Vol.107

~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~


コロナ禍で見えてきた新しい医療のあり方


金丸:同じような思いを抱えていた方は、菊池さんのほかにもいたと思います。でも、菊池さんは、実際に行動を起こされました。

菊池:「やっぱりこの声に応えないとダメだ」と思ったんです。まずはオンライン診療を活用して、多くの診療ニーズに応えられるようにしました。さらに、当時は発熱してからPCR検査が受けられるまでに1週間程度の日数が必要でした。私たちが在宅診療でのPCR検査に取り組むことで、発症から翌日には結果が出るようになりました。

金丸:第1波の時点でその決断ができたのは、菊池さんだけでなく、ファストドクターに登録された医師たちも使命感を持っていたからだと思います。

菊池:当時は未知のウイルスでしたから、二次感染への不安を感じる医師も少なくありませんでした。感染を予防するためのガウンなどは、国内にあるものはすべて病院で使用され、海外からの流通も滞っている状況でした。価格も高騰していたので、発熱診療に必要な感染対策を整えるだけでも会社が潰れてしまうんじゃないか、と思ったくらいです。

金丸:救急往診するドクターも菊池さんも、言葉では表せないくらい大変な思いをされてきたんですね。

菊池:正直なところ、本当に苦しかったです。

金丸:その後、暫定的にオンライン診療が解禁されましたね。

菊池:救急往診だと対面での診察が求められます。オンライン診療が可能になると、二次感染のリスクを無視できるので、医師の負担はかなり軽減されました。

金丸:変異株が出現し、重症化しやすいとか感染力が強いとか、対応にもいろいろなフェーズがあったと思います。

菊池:第4波から5波のデルタ株のときは、肺炎を起こした患者さんのもとへ酸素濃縮機を持っていくケースが多かったので、対面で診る必要性が強まりました。その後、第6波以降のオミクロン株では肺炎を合併するリスクが下がったので、オンライン診療のボリュームが増えました。

金丸:フェイスtoフェイスだけ、あるいはオンラインだけじゃなく、必要に応じてその切り替えが可能になったことが功を奏したと。

菊池:おっしゃるとおりです。第6波以降で感染者が爆発的に増えたとき、オンライン診療という手段がなければ、対応しきれませんでした。

金丸:各地の自治体とも連携されていますよね。

菊池:はい。埼玉県との連携では、保健所に相談のあった救急車を必要としない症例のうち、約8割はオンライン診療のみで完結することができました。その他にも、必要時に適切に往診するなどの対面診療と連携できる体制を整えたことにより、ほぼ100%の患者さんが3日後も安全に過ごせていたことが分かっています。

金丸:「オンライン診療だと、見落としが起こるのでは」と不安視する声もありますが、それが杞憂だったことが証明できますね。

菊池:福島県福島市では、オンライン診療で対面が必要と判断された場合に、医師ではなく訪問看護師が患者宅に向かい、オンライン診療をサポートするモデルをリリースしました。こちらも患者さんの3日後の予後は、100%安全だったという結果が出ています。旭川市では、救急隊とファストドクターをオンライン診療でつなぐ取り組みをしていました。救急隊は医学的な判断をすることが許されておらず、不要不急の救急搬送が患者さんや病院の負担となっています。そこで、医師が救急隊の代わりにオンライン診療を行い、搬送が不要なものは処方を宅配し自宅療養を促すことをした結果、不要不急の搬送を44%も減らすことができました。

金丸:ということは、緊急搬送をほぼ半分に減らすことができたんですね。すごい効果だと思います。

【SPECIAL TALK】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo