2011.08.22
行かなければもぐり! 東京肉名店 Vol.1行かなければもぐり!東京肉名店
肉を焼く、それだけの技術なのだがこれがどうして奥が深い。
その技に年月を重ねてきたお姉さまお二人の、熟練の腕に迫った。
すき焼きや焼肉はセルフで肉を焼くことが多い。焼くのは簡単。だが、肉のポテンシャルを最大限に引き出す焼き方となると難易度が急に高まる。タッチの差が最高の美味とそうでない味を分ける。肉焼き道のなんたる厳しさ。卑しくも気高き食いしん坊の道に、ちょっとだけでも光りが差しますように。というわけで、すき焼きと焼肉、それぞれの道に長けたレディ・マイスターにご指導を賜った。
まずは、湯島は天神様のすぐそばにある老舗すき焼き店『江知勝』の仲居さんだ。明治4年、(1871年)の創業以来、先輩から後輩へ脈々と受け継がれてきた肉焼きの技術は、仲居さん全員が等しくマスターしているというが、今回は代表してとし子さんにご登場いただいた。
まず、割り下を適量に注いだら、鍋半分に野菜や豆腐を並べる。割り下が沸騰し始めたらお肉を2枚広げて投入。この時、白滝の凝固剤に使われている石灰が肉を硬くするのを防ぐため、肉と白滝を遠ざけておく。「お肉が少しまだらにピンク色になったかな、くらいで裏返します。裏返したらすぐに召し上がってください」と、とし子さん。このタイミングで肉を引き上げ、溶き卵につけて食べると、確かに! フワッとほぐれ、新鮮な肉の味が口いっぱいに。ちょっと火を入れすぎると割り下が勝ってしまうが、ピークの一瞬を捉えれば、黒毛和牛の処女牛A5の美点が余すことなく引き出されるというわけだ。そう、我々は割り下ではなく、肉を求めてきたのだ。そんな原点を今後も忘れずにおきたい。
気が引き締まる思いで次に向かったのは月島である。開発でビルが増えているものの未だ長屋が残る下町エリア。その路地裏に店を構える『焼肉 凛』はその前身となる『千花園』時代から数えると創業34年。近辺の焼肉屋では1番の古株だ。こちらの女将、田中隆子さんの焼きテクも相当年季が入っている。
「タンだけはしつこいくらいに焼き方をお教えします」と田中さんが言う、タンはこの店の看板メニュー。味があってジューシーで、と理想を追ったら上タン塩焼のタンの厚みは1㎝強に。ほかの部位ももちろん、ハイレベルだが、ここを訪れる人々は皆、究極ともいえるこのぶ厚いタンを食べに来ていると言っても過言ではない。
初心者のテーブルでは田中さん、またはその教えを受け継いだ女性スタッフが付きっきりで焼いてくれる。まず、火の強いガス台の端にタンを乗せる。身に火が入り、中央が膨らんできたら裏返し、両面ともこんがり焼く。「このくらいの加減で焼くと噛んだ時にサクッと歯切れがいいんですよ。でも、焼き過ぎるとどんなにいいお肉でも硬くなってしまいます。焼き上がったタンには長ネギの小口切りをたっぷり乗せて、レモンを搾ってください」とのこと。
まさに風味絶佳、歯応えよし。教えに従えば、誰しもにわかに肉焼き名人。絶品焼肉は肉質のみにあらず。焼き方の大切さが胃袋に染みた夜だった。
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