牛肉進化論。炭火ステーキから肉割烹まで Vol.1

原始的に、エレガントに炙った肉は最強!

左.選び抜いた旬の食材を使った季節感溢れるスープや前菜はスタッフと相談して決めるのが吉

右.肉を選ぶポイントは脂の甘みよりも「肉味」。産地にこだわるのではなく、赤身と脂身の質で見る

真っ赤におこった炭の上に肉が静かに置かれる。その瞬間から、煉瓦製の炉窯の中には太古の時間が流れ始める――――

20世紀後半以降、文明の利器と偉大なる料理人の熱意により、真空調理や低温調理などの新しい加熱方法が創造されてきた。それらは素材の旨みを残し、汁気を逃さないなどの利点をもつ素晴らしいやり方であり、80年代には真空調理によってジョエル・ロブション氏が、90年代には低温調理によってアラン・パッサール氏がスターダムを駆け上がった。ここ日本では『カンテサンス』の岸田周三氏がその技を受け継いでいることは、ご存知の通りである。

だが、未だに細胞のどこかに、洞窟で暮らしていたあの頃の記憶を止める私たちにとって、直火で炙った肉以上に空腹を、それも生存意欲を掻立てられるような刺激的な空腹を感じさせるものはないのではないか。

ここ銀座『トロワフレーシュ』ではサーロインであるならば、オリジナルの炉窯の中で、最高800度にもなる紀州備長炭の火力で直に表面を焼きつける。およそ1分で思いがけず濃い焼き色がつき、芳ばしい香りが溢れかえる。その後、肉は火から遠ざけられ、芯までゆっくりと温められていく。ナイフを入れれば驚くほど柔らかく、舌に乗せればビロードのようになめらか。そして、噛みしめれば肉汁がほとばしる。この店のステーキはそのようにプリミティブな魅力と、洗練された職人の技術がない交ぜとなったものである。

「これは我々の力だけではなく、お客様や食材業者とつながりあってこその結果であると考えております」と店主は言う。黒毛和牛のサーロインとヒレ、滑らかな赤身の短角牛サーロイン、もしくはリブロースを厚く信頼を寄せる業者から買い付け、店がそれぞれの肉に合わせて焼き上げ、ゲストに提供する。そのどれが欠けても成立しないと。信頼。この店の肉にはこの時代に最良の調味料が添えられている。

最初にガッと表面を焼き込むサーロインとは異なり、ヒレの場合は遠火で柔らかく火を入れていく

黒毛和牛ヒレ(400g)¥25,000。抵抗なくスッとナイフが入るヒレはしっとり柔らかく、クセがない

左.さまざまな産地の塩を混ぜ合わせたオリジナルのブレンド塩と胡椒が上質の肉をさらに引き立てる

右.北海道産毛蟹のカクテル。肉はもちろん、魚料理を盛り込むことでトータルでの美味を目指す

余計な装飾のないシンプルなダイニング。まずはその日味わえる肉が席まで運ばれ、味の説明がある

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