SPECIAL TALK Vol.99

~研究者として、教育者として、人をより自在に少年の心を忘れず新たな世界を拓きたい~

令和のニューリーダーたちへ


背景と同化して、姿が見えなくなるマント。4本のアームを使った共同作業を遠隔で可能にするロボットアーム。

ウェアラブルデバイスや拡張現実デバイスを用いた、これまでにない運動競技「超人スポーツ」。

SF小説や漫画の世界から飛び出してきたかのような技術を次々とかたちにしているのが東京大学 先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授だ。

人がより自由自在に表現したり、行動したりできるような「人間拡張工学」を専門にする稲見氏が少年時代に憧れたのは、人気キャラクター「ドラえもん」のひみつ道具の数々。

稲見氏の歩みを振り返りながら、日本の科学技術やビジネスの将来を探る。

稲見昌彦氏 1972年、東京都生まれ。99年3月、東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。2006年4月、電気通信大学電気通信学部教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、東京大学大学院情報理工学系研究科教授を経て、16年4月より東京大学 先端科学技術研究センター教授に着任。人間のシステム的理解、人間拡張工学、自在化技術、エクスペリエンス工学、エンタテインメント工学などを専門分野とする。


金丸:本日は東京大学 先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授をお招きしました。お忙しいところありがとうございます。

稲見:お招きいただき光栄です。

金丸:今日の対談の舞台は2022年11月にオープンしたばかりの『まとい銀座』です。「アマンリゾーツ」で日本人初のコーポレートエグゼクティブシェフを務めた的場圭司シェフが腕を振るい、和牛にフィーチャーした割烹を楽しめるそうです。

稲見:料理もとても楽しみです。実は私は「肉肉学会」という、肉を研究するコミュニティに参加しているんです。産官学に生産者や消費者など国内のさまざまな立場の人たちが集まって議論しながら肉の魅力を探っています。

金丸:面白い活動ですね。稲見さんの専門分野である「人間拡張工学」も興味深いです。

稲見:似たような研究に、不足している機能をテクノロジーで補ってマイナスをゼロに近づけるという「補綴工学」という分野がありますが、「人間拡張工学」はテクノロジーによって人間の認識や行動能力を広げてゼロをプラスにするという考え方です。なかでも私は「『自動化』から『自在化』」をコンセプトに掲げています。

金丸:「自在化」とはどういったコンセプトなんでしょうか。

稲見:「自在化」は、新しいものを創ったり、新しいことを体験したり、人間のやりたいことを時空や身体的制約を超えて実現させていくことです。これまで自動化されてきたものは、どちらかというと「人間がやりたくない」ものでしたが、自在化では「人間がやりたい」ことを、より心のままにできるようにする、というものです。

金丸:すでにワクワクしてきました(笑)。「肉肉学会」で肉について研究しているということですが、食の領域でも、技術の発達によって、いろいろな変化が起こってくるのでしょうか。

稲見:味覚をゼロから作るのは難しいんですが、最近では明治大学の宮下芳明先生が電気刺激で塩味を感じるスプーンとお椀型のデバイスを開発されました。それを使えば減塩食をされている方でも、しっかりと塩味を感じながら食事ができるようになります。

金丸:面白いですね。だけど、食は味覚だけではなく、香りや食感、その場の雰囲気や器によっても、感じる満足度が違いますよね。

稲見:おっしゃるとおり。複数の感覚がお互いに影響しあう「クロスモーダル」です。実際、食器の重さが味の感じ方に影響を及ぼすという心理学的な実験もあります。私が携わった研究でも、重心の位置を変えられるフォークを作って実験したところ重さの感じ方次第で味の濃さや食感にも違いが出るという結果が出ました。

金丸:そういう技術がどんどん浸透していけば、いずれは食の体験が一変するかもしれませんね。

稲見:現状だと、特に香りに関するものが難しいですが、20年もすれば、違和感のないVR(バーチャルリアリティ)な食事が部分的には可能になるかもしれません。

金丸:それは楽しみですね。今日は稲見さんがご幼少の頃からどんなことを考え、どんな道を歩んできたのか、そして日本を牽引する科学者として今、どのようなことに取り組んでおられるのかまでじっくり伺います。

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