2022.12.21
SPECIAL TALK Vol.99
目指すのは学術界のアントレプレナー
金丸:稲見さんはメタバースをどう見ていますか?可能性のあるテクノロジーでしょうか。
稲見:今あるメタバースはポテンシャルを十分発揮できていないと感じています。メタバース内で、アバター同士がコミュニケーションするというのは残ると思いますが、私としては人間のデジタルツインを使ってできることに可能性があるのではないかと。
金丸:サイバー空間に、現実世界を再現するということですね。
稲見:例として、同じ研究室にいた教員が、触覚デバイスを使って、筋肉の力の入れ方、力の抜き方を伝える研究をしていたのですが、それを使うと、本来、習得までに数週間かかる和紙の紙漉きの動作を10回程の練習で身につけられるんです。
金丸:伝統芸能や伝統工芸によくある「見て盗め」のアップデートですね。見てるだけだと、よくて表面的な動きしか真似できません。
稲見:見様見真似って、必ずしも上達に繋がるわけじゃないんです。トップのスポーツ選手のフォームを真似ようとして、故障してしまう人も結構いますから。
金丸:それはそうでしょうね。大谷翔平だって、ウサイン・ボルトだって、彼らの体格や筋肉の付き方があって、その人に最適なフォームだからこそ力を発揮できるわけで。
稲見:デジタルツインで再現されたサイバー上の空間内でいろいろなパターンで練習させて、一番うまくいきそうな方法を現実の世界で自分が試してみる、というモデルはいずれ実現するはずです。
金丸:日本ではいまだに根性論がはびこっていますが、闇雲に努力したって結果には繋がりませんからね。ところで、今、稲見さんの研究室は何人くらい在籍してるんですか。
稲見:教員、研究員が10名弱、さらに博士課程と修士課程を合わせると総勢で40人くらいです。
金丸:学生は研究者として大学に残る人が多いんですか。
稲見:残る人もいれば就職する人もいますが、最近はスタートアップ企業に行きたいという人も増えてきましたし、自分でスタートアップを立ち上げたいという人も出てきました。
金丸:それはいい傾向ですね。「大企業に行けば、大きなことができる」と考える人がいまだにいますが、最先端で研究していた人が動きの遅い大企業に入ったって、すぐに出番は回ってきません。
稲見:これまで自分なりにいろいろな分野で、いろいろなことをやってきて感じるのが、私自身のモチベーションは、「学術界のアントレプレナーになりたい」というところから湧いてきているように感じます。
金丸:すばらしいじゃないですか!
稲見:「既存の分野のなかで頑張る」よりも「新しく分野を立ち上げる」。今後、こういう学問領域が世の中には必要なはず、ないんだったら自分たちが作ろう!と。
金丸:アントレプレナーって、日本では起業家のことを指すことが多いですが、企業だろうが、民間だろうが、大学教授だろうが、イノベーションを武器に、リスクを取って、新しく事業を立ち上げようという人は誰だってアントレプレナーです。大企業であっても、アントレプレナーシップに富んだ従業員がいっぱいいれば、その組織はイノベーティブで腐らない。逆に勢いのあるスタートアップでも、現状維持や前例主義、実績主義がはびこってくれば、あっという間に成長しなくなってしまう。
稲見:私の研究室にはいろいろなバックグラウンドを持った人が来ます。研究室のメンバーだけでなく、世界の人たちと協力しながら、というのもまた楽しいし、アカデミックの世界だけでなく、社会においてもアントレプレナーを応援したいとも思っています。
金丸:大学と一般企業って、分けて考えがちですが、実際には表裏一体なんです。アメリカの場合は、スタートアップで成功した人が一定の財を成したあと、また大学に呼ばれることも珍しくない。新しいアイデアや技術が富を生むということが共通認識になっているからです。
稲見:大学という公的な機関で研究をしているため、パブリックセクター、公(おおやけ)の意味ってなんだろうと、学内でも議論することがあります。企業活動はものすごく重要ですけど、公的な機関にいる私たちは、社会のなかでどういう役割を担うべきなのか今一度考えるべきです。
金丸:東京大学に求められるのは、ひとつは仮説や理論で国を牽引することでしょうね。もうひとつが還元。新しい理論や技術を社会実装する。ただ、そのためには研究開発投資、つまり原資が必要です。その原資を、これまでは広く薄く税金でもらっていたわけですが、大学自身が日本における大学と社会の関わり方をアップデートし、新しいかたちを示せるかどうかにかかっていますね。
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