この世には、生まれながらにして満たされている人間がいる。
お嬢様OL・奥田梨子も、そのひとり。
実家は本郷。小学校から大学まで有名私立に通い、親のコネで法律事務所に就職。
愛くるしい容姿を持ち、裕福な家庭で甘やかされて育ってきた。
しかし、時の流れに身を任せ、気づけば31歳。
「今の私は…彼ナシ・夢ナシ・貯金ナシ。どうにかしなきゃ」
はたして梨子は、幸せになれるのか―?
梨子は、心臓が飛び跳ねるのを感じた。
ロック画面に表示されている、LINEのポップアップ。昨晩送ったLINEの返事がようやく来たのだ。
勤務先の弁護士事務所で契約書のレビューをしていたが、スマホに手をのばす。
『隆俊:リコちゃん、昨日はお疲れさま。今度はお互いの友達を呼んでバーベキューでもしよう』
隆俊、32歳。年齢は、昨日のデートで知った。
彼と初めて会ったのは、1年前の食事会だった。当時はただ連絡先を交換しただけだったが、昨日の夕方なぜか突然「今日会えない?」と連絡があり、デートに誘われたのだ。
― 久々の再会、うれしかったな。もしかしたら隆俊さんって、運命の相手なのかも!
梨子は、即座にスマホに返事を入力しはじめる。
『梨子:お寿司も美味しかったです。ぜひまた一緒に美味しいものを食べに行きましょう!
お食事会からだいぶ時間も経っていたのに、覚えてくれていたのがうれしかったです。当日夕方のお誘いも素敵なサプライズでした♡』
5分後、メッセージは既読になる。しかし隆俊からの返信はない。
画面をスクロールすると、昨晩、解散後に送ったメッセージが表示された。
『梨子:隆俊さん、今日はお誘いありがとうございました!1年前のお食事会の時はあまり話せなかったので、今日はたくさん話せてよかったです。
突然連絡くれたときは驚きましたが、今は運命感じています!』
― 今考えると、このLINEはちょっと重すぎたかなあ。今度はみんなでバーベキューね。隆俊さんのこと、もっとよく知れるチャンスだな。
梨子は、契約書が表示されているラップトップに視線を戻し、仕事を再開する。
そのとき、梨子の上司が、会議室から顔を出した。
「奥田さん、ちょっといい?」
この記事へのコメント
仕事への情熱とか責任感とか全然ない所は上記の二人よりダメ子かも。