学年全体での同窓会が終了し、クラスごとに分かれ、12~13人ほどで2次会へと移った。
場所は、目黒にある『居酒屋 友』。
座敷に座り、思い思いに会話を交わす。過去の出来事を語り合っては記憶をすり合わせ、団らんの時を過ごす。
そこで、智也はある人物の存在に気づく。
店の隅の目立たない場所に座っている女性が、さっきから智也のいるテーブルのほうにチラチラと視線を向けていたのだ。
― 誰だっけなぁ…。
長い黒髪がやや乱れ、猫背気味で俯き加減に一点をボーッと見つめている様子には、悲愴感が漂っている。
「ねえ、藤原。あの、奥に座っている暗い感じの子って…誰だっけ?」
恵美に尋ねてみると、目を丸くして言う。
「えっ!忘れちゃったの!? アスカだよ!」
「アスカ…って、ええっ!三波さん!?」
三波飛鳥。
クラス委員長を務め、成績優秀。おまけにめちゃめちゃ美人。智也も憧れを抱いていたが、身分不相応に感じてしまい、話しかけるのも気が引ける存在だった。
― あの美しかった三波さんが…。一体何があったんだ…。
「あ、私、ちょっとトイレ行ってくるね」
恵美がそう言って席を立つ。
― 三波さん、頭が良かったから、いろいろ悩み過ぎちゃったのかもしれないな…。
10代のころは誰しも、高い壁にぶつかるもの。正面からぶち当たれば、大きなダメージを受ける。だからこそ、もがきながらも上手く回避する術を身に付けていく。
飛鳥は真面目がゆえにそれができず、一つひとつの困難をまともに捉えすぎたのかもしれない、と智也は思う。
智也は、時の流れの残酷さを憂う。
哀れにすら思ってしまいそうな思考を智也が振り払ったところで、誰かが隣の席に座った。
腰をおろした人物を見て狼狽える。
「お久しぶり」
三波飛鳥だった。
「あ、う、うん。久しぶり…だね。三波さん」
「前野君、ほんと大人っぽくなったね。見違えたよ」
「そ、そうかな?三波さんも…元気だったかな?」
「うん、元気だよ」
「そうか。なら良かった」
― あまり元気そうには見えないんだけど…。
「前野君て、今は仕事何しているの?」
「俺は、今は商社に勤めてて…」
会社名を伝えると、飛鳥が「ええ、すごい。大手だね~」と感嘆の声をあげる。
会話は続くものの、内容もいまいち噛み合わず、智也は居心地の悪さを感じてしまう。
「あっ!このシュウマイ美味そう!うわ~」
智也は、助けを求めるように、テーブルの上の料理に箸を伸ばす。
すると、飛鳥が一瞬フッと押し黙る。
「ほら、これ美味しいよ。三波さんも食べな食べな…」
沈黙を埋めようと料理を勧めると、その言葉を遮るように飛鳥が口を開いた。
「ところで、前野君。覚えてないかもしれないけど…」
智也の脳裏に、嫌な予感がよぎる。
飛鳥が何を言おうとしているのか、同窓会に参加してから今までの流れで、なんとなく察しがついた。
― 嘘だろ…。お願いだから、やめて…。
切なる願いも虚しく、飛鳥が言った。
「どうかな?私に、『30歳になるまで独身だったら、結婚しよう』って言ったの…」
智也の手から、持っていた箸が滑り落ちた。
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30歳まであと2ヶ月。約束を回避するために智也は奔走する…
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