29歳のグレー Vol.1

29歳のグレー:「30歳になったら結婚しよう」かつて約束していた女が、目の前に現れて…

学年全体での同窓会が終了し、クラスごとに分かれ、12~13人ほどで2次会へと移った。

場所は、目黒にある『居酒屋 友』


座敷に座り、思い思いに会話を交わす。過去の出来事を語り合っては記憶をすり合わせ、団らんの時を過ごす。

そこで、智也はある人物の存在に気づく。

店の隅の目立たない場所に座っている女性が、さっきから智也のいるテーブルのほうにチラチラと視線を向けていたのだ。

― 誰だっけなぁ…。

長い黒髪がやや乱れ、猫背気味で俯き加減に一点をボーッと見つめている様子には、悲愴感が漂っている。

「ねえ、藤原。あの、奥に座っている暗い感じの子って…誰だっけ?」

恵美に尋ねてみると、目を丸くして言う。

「えっ!忘れちゃったの!? アスカだよ!」

「アスカ…って、ええっ!三波さん!?」

三波飛鳥。

クラス委員長を務め、成績優秀。おまけにめちゃめちゃ美人。智也も憧れを抱いていたが、身分不相応に感じてしまい、話しかけるのも気が引ける存在だった。


― あの美しかった三波さんが…。一体何があったんだ…。

「あ、私、ちょっとトイレ行ってくるね」

恵美がそう言って席を立つ。

― 三波さん、頭が良かったから、いろいろ悩み過ぎちゃったのかもしれないな…。

10代のころは誰しも、高い壁にぶつかるもの。正面からぶち当たれば、大きなダメージを受ける。だからこそ、もがきながらも上手く回避する術を身に付けていく。

飛鳥は真面目がゆえにそれができず、一つひとつの困難をまともに捉えすぎたのかもしれない、と智也は思う。

智也は、時の流れの残酷さを憂う。

哀れにすら思ってしまいそうな思考を智也が振り払ったところで、誰かが隣の席に座った。

腰をおろした人物を見て狼狽える。

「お久しぶり」

三波飛鳥だった。

「あ、う、うん。久しぶり…だね。三波さん」

「前野君、ほんと大人っぽくなったね。見違えたよ」

「そ、そうかな?三波さんも…元気だったかな?」

「うん、元気だよ」

「そうか。なら良かった」

― あまり元気そうには見えないんだけど…。

「前野君て、今は仕事何しているの?」

「俺は、今は商社に勤めてて…」

会社名を伝えると、飛鳥が「ええ、すごい。大手だね~」と感嘆の声をあげる。

会話は続くものの、内容もいまいち噛み合わず、智也は居心地の悪さを感じてしまう。

「あっ!このシュウマイ美味そう!うわ~」

智也は、助けを求めるように、テーブルの上の料理に箸を伸ばす。

すると、飛鳥が一瞬フッと押し黙る。

「ほら、これ美味しいよ。三波さんも食べな食べな…」

沈黙を埋めようと料理を勧めると、その言葉を遮るように飛鳥が口を開いた。

「ところで、前野君。覚えてないかもしれないけど…」

智也の脳裏に、嫌な予感がよぎる。

飛鳥が何を言おうとしているのか、同窓会に参加してから今までの流れで、なんとなく察しがついた。

― 嘘だろ…。お願いだから、やめて…。

切なる願いも虚しく、飛鳥が言った。

「どうかな?私に、『30歳になるまで独身だったら、結婚しよう』って言ったの…」

智也の手から、持っていた箸が滑り落ちた。


▶他にも:“東京アメリカンクラブ”でのパーティーに潜入したら、業界人がずらり!そこで驚愕の裏事情を知り…

▶Next:11月27日 日曜更新予定
30歳まであと2ヶ月。約束を回避するために智也は奔走する…

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください!

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
女性を年齢でしか見ずに年齢で判断するような男は、一生独身でいればいいと思う! 俺は29歳だから付き合うなら20代半ば迄がベスト。勝手に言ってろ!
2022/11/20 05:4199+返信8件
No Name
登場人物全員子供っぽくて、ちょっと引いた。
2022/11/20 05:3783返信3件
No Name
中学の時は美人で、周りからちやほやされてた人が、同窓会で会ったらすごい老け込んじゃって、どうしたのってパターン割とあるね😂
2022/11/20 05:3665返信1件
もっと見る ( 27 件 )

【29歳のグレー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo