「ナイスオンです~!」
ぴたっとピンそばに寄せる、大輝さんのアプローチショットに、私は思わず声を上げる。
その言葉に、軽く手を上げて、彼が笑顔を向けてくれる。
私以外は皆、たまにボギーを出すパーペース。まだ100を切ったことのない私とは、大きな実力差だ。
「那月ちゃんも、年に数回しか行ってないとは思えないくらい上手だよ!」
「本当ですか…?」
「飛距離も出るし、大崩れもしないから、センスある!グリーンまわりは実践あるのみだから、定期的にコースを回るようになったらぐんとうまくなるよ」
ゴルフの上手な大輝さんに褒められて、私は素直に嬉しかった。
回りながら確信に変わったことがある。
なんとなく気がついていたが、麻由子は康介さん狙いだ。
前の組が詰まった時など、ゴルフはちょっとした待ち時間が定期的に発生する。
そういった時間、麻由子は積極的に康介さんに話しかける。
必然的に私は、大輝さんと話す時間が多くなっていた。でも、決して悪い気はしなかった。
― 麻由子の言う通り、ゴルフって初めて会う人とでも、終わった頃にはすっかり打ち解けられるほど、お互いのことたくさん知れるかも。
もちろんゴルフの話もするが、プライベートのこと、仕事のことも話しながら回ることができるので、相手への理解がこの半日だけでぐっと深まった気がする。
― ゴルフがこんなに楽しいものなんて、知らなかった…。
上司に気を使いながら参加した会社のゴルフコンペとは、大違いだ。
実力に大差ない上司たちが、聞いてもいないのにアドバイスしてくることを、私はどうやってかわすか必死だった記憶しかない。
ゴルフ自体は楽しいのに、自由にやらせて…。正直、いつもそう思っていた。
でも、今日のメンバーは誰一人余計なことは言わない。
どう狙おうか、どのクラブを使おうか。そう悩んでいると、その様子を察してくれて、そっと隣に来てアドバイスをくれる。
その距離感が、とても心地がいい。
― 皆みたいにもっとうまくなったら、更に楽しくなるんだろうな。
緊張が完全に解れ、もっと楽しみたい!なんて思う頃には、あっという間に最終ホールも終わりを迎えようとしていた。
◆
「お疲れさま~!最高に楽しかった!」
各自帰り支度も済ませ、ロビーに集合する。大輝さんも康介さんも、ゴルフウェアから私服に着替えており、すっかり印象が変わっていた。
ドレスコードに則った、ジャケットスタイルだ。ふたりともフォーマルな服装もしっかり着こなしていて、ステキだなと思った。
「康介さん、今日はありがとう!那月も楽しめたみたいだし、またこのメンバーで回りましょうね」
「もちろん!そして、ひとつ提案!明日も休みだし、ふたりがよかったら、東京に戻ってから食事に行かない?それぞれ家に荷物置いて、車戻してから現地集合でどうかな?」
その提案に、どうする?と麻由子は私を見る。
ぜひ!という気持ちを込めて私も大きくうなずく。
「よかった!じゃあこれから店決めて連絡するから、またあとで」
ふたりが周辺のお店に詳しいということで、18時に麻布十番あたりで集合することとなった。
重いから持って行くよ、とふたりは私たちのゴルフバッグもひょいと持ち上げ、駐車場へ向かう。その後ろを私と麻由子が追いかける。
麻由子のBMWに乗り込んだ私たちは「また、あとで」と男性陣と一旦別れた。
「那月、大輝さんといい雰囲気だったよ。どう?」
車を出し、彼らの姿が見えなくなったところで、早速麻由子が探りを入れてきた。
「今のところいいなとは思ってるけど、まだ好きになれるかはわからないかな。そういう麻由子こそ、康介さんと…」
「でもね、康介さん、今奥さんと離婚調停中なんだって…」
今日のふたりの様子を見て、私は麻由子の想いを応援しようと思っていた。だが、彼女の口から語られたのは、意外な事実だった。
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