ハッピーエンドの行く先は Vol.1

ハッピーエンドの行く先は:絶対に家へ招いてくれない彼。不審に思った女が、自宅に突撃した結果…

「世田谷までお願いします」

隆志がホテルを出た30分後。私は、タクシーに乗りこんだ。

私が思いついた作戦。それは彼の自宅まで行って、隆志が既婚者でないかを確認するというもの。

付き合って3ヶ月も経つのに「引っ越したばかりでまだ部屋が片付いていないから」という理由で、私は一度も彼の部屋に行ったことがないのだ。

女子大時代の友人にそれを話すと、全員が口をそろえ「既婚者に違いない」と言った。誠実で優しい彼が、不倫なんてするはずない。そう信じたかったけれど…。

― やっぱり騙されているのかも。

そんな疑念が、何度も頭をよぎる。私は車窓から朝の六本木通りを見つめながら、隆志と過ごした日々を思い返していた。


「これ、隆志くんだよね!?」

連絡先を交換して、数日後。『オービカ モッツァレラ バー』で、初デートをした日のこと。

私は興奮しながら、スマホ画面を彼に見せていた。なぜなら私の大好きな恋愛映画のエンドロールに、プロデューサー・高橋隆志と書かれていたから。

ちなみにその映画は、彼が書店で声を掛けてきたときに立ち読みしていた、例の恋愛小説の実写版だ。

「偶然、隆志くんの名前を見つけて。びっくりしちゃった!」

…というのは、完全なる嘘。私はLINEを交換してすぐに、彼の名前をネット検索した。

すると、彼は大手映画配給会社の名プロデューサーであり、数多くのヒット作に関わっているということがわかったのだ。

「ま、まぁ。よくわかったね」

「やっぱりそうだよね!すごい、カッコいいなあ」

私はそう言いながら、隆志の大きな目を見つめた。

彼は自身の仕事について、多くは語らなかった。しかし時々、少年のようにキラキラした瞳で好きな映画や俳優、お笑い芸人について語るのだ。

小学校から大学まで女子校で過ごし、建築会社を経営する父と専業主婦の母の元で厳しく育てられた私。それとは対照的に、大阪から上京し自分で道を切り開いてきた隆志。

私は25歳で初めてできた彼に、たちまち惹かれていった。

「美沙。最近外泊が多いが、恋人でもできたのか?それなら早く家に連れてきなさい」

そう父に言われたのは、1ヶ月前のこと。それからすぐに、彼を実家に誘った。

隆志は私の提案に「もちろん」と言って、控えめに微笑んだが…。今思い返すと、その笑顔が引きつっていたようにも思えるのだった。


「もうまもなく、到着しますよ」

我に返ると、タクシーは世田谷通りを抜けて細い道に入っていた。周辺には公園や小学校があり、いかにも子育て世代が住んでいそうな一軒家が立ち並ぶ、高級住宅街だ。

「はい到着しました。こちらになります」

「えっ…」

タクシー運転手が指さした方向を見た瞬間、私は言葉を失った。

この記事へのコメント

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No Name
六本木のラグジュアリーホテルってリッツとかグランドハイアットだよね。その一室って結構な値段すると思うんだけど、それは彼が見栄はって出してたってこと? 今時ポストにフルネーム書くボロアパートがあるのかは知らないけれど、そこに住むような人がデートで毎回ホテル代払えたのかな〜。
2022/10/11 05:3288返信1件
No Name
何だかよく分からなかった。 仕事何やってるかきちんと聞く前にLINEのフルネームで勝手に調べて勝手に間違えて…。なら美沙がバカだだっただけ?まぁ隆士もプロデューサー高橋隆志を見せたら否定しなかったのも悪いけど。
2022/10/11 05:2970返信1件
No Name
タイトル見て、これは”既婚者” と思わせておいてその期待を裏切るストーリーだなとすぐわかったけれど…
鈍臭い世間知らずなお嬢様が勘違いしただけよね。
2022/10/11 05:3640返信2件
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