2022.10.11
ハッピーエンドの行く先は Vol.1「世田谷までお願いします」
隆志がホテルを出た30分後。私は、タクシーに乗りこんだ。
私が思いついた作戦。それは彼の自宅まで行って、隆志が既婚者でないかを確認するというもの。
付き合って3ヶ月も経つのに「引っ越したばかりでまだ部屋が片付いていないから」という理由で、私は一度も彼の部屋に行ったことがないのだ。
女子大時代の友人にそれを話すと、全員が口をそろえ「既婚者に違いない」と言った。誠実で優しい彼が、不倫なんてするはずない。そう信じたかったけれど…。
― やっぱり騙されているのかも。
そんな疑念が、何度も頭をよぎる。私は車窓から朝の六本木通りを見つめながら、隆志と過ごした日々を思い返していた。
「これ、隆志くんだよね!?」
連絡先を交換して、数日後。『オービカ モッツァレラ バー』で、初デートをした日のこと。
私は興奮しながら、スマホ画面を彼に見せていた。なぜなら私の大好きな恋愛映画のエンドロールに、プロデューサー・高橋隆志と書かれていたから。
ちなみにその映画は、彼が書店で声を掛けてきたときに立ち読みしていた、例の恋愛小説の実写版だ。
「偶然、隆志くんの名前を見つけて。びっくりしちゃった!」
…というのは、完全なる嘘。私はLINEを交換してすぐに、彼の名前をネット検索した。
すると、彼は大手映画配給会社の名プロデューサーであり、数多くのヒット作に関わっているということがわかったのだ。
「ま、まぁ。よくわかったね」
「やっぱりそうだよね!すごい、カッコいいなあ」
私はそう言いながら、隆志の大きな目を見つめた。
彼は自身の仕事について、多くは語らなかった。しかし時々、少年のようにキラキラした瞳で好きな映画や俳優、お笑い芸人について語るのだ。
小学校から大学まで女子校で過ごし、建築会社を経営する父と専業主婦の母の元で厳しく育てられた私。それとは対照的に、大阪から上京し自分で道を切り開いてきた隆志。
私は25歳で初めてできた彼に、たちまち惹かれていった。
「美沙。最近外泊が多いが、恋人でもできたのか?それなら早く家に連れてきなさい」
そう父に言われたのは、1ヶ月前のこと。それからすぐに、彼を実家に誘った。
隆志は私の提案に「もちろん」と言って、控えめに微笑んだが…。今思い返すと、その笑顔が引きつっていたようにも思えるのだった。
◆
「もうまもなく、到着しますよ」
我に返ると、タクシーは世田谷通りを抜けて細い道に入っていた。周辺には公園や小学校があり、いかにも子育て世代が住んでいそうな一軒家が立ち並ぶ、高級住宅街だ。
「はい到着しました。こちらになります」
「えっ…」
タクシー運転手が指さした方向を見た瞬間、私は言葉を失った。
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