「2人は、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
…本当に、そうでしょうか?
今宵、その先を語りましょう。
これは「めでたし、めでたし」から始まる、ほろ苦いラブ・ストーリー。
Episode1:いつまでも自宅にあがらせてくれない彼氏
「美沙、愛してる」
六本木にある、ラグジュアリーホテルの一室。私は恋人・隆志の胸に顔をうずめながら、ベッドの上で幸せをかみ締めていた。
「うん。私も」
その言葉に彼は満足げに微笑み、私の髪を優しく撫でてくる。
「ねえ隆志。…今度、お部屋に行ってもいい?」
「あぁ、もちろん。もう少し仕事が落ち着いたらね」
◆
彼との出会いは3ヶ月前。書店で文庫化された恋愛小説を立ち読みしていた私に、突然声をかけてきたのが隆志だった。
「その小説、好きなん?僕も好きやねん」
聞き慣れない関西弁に思わず振り向く。そこにはタキシード姿の彼が立っていたのだ。
最初は新手のナンパかと思ったが、彼の端正な顔立ちと大きな目に、思わず運命を感じてしまった私。そして求められるがまま連絡先を交換した。
「美沙さん、僕と付き合ってくれませんか?」
こうして3回目のデートをした後に告白され、私たちは付き合うことになったのだ。
◆
「じゃあ、俺はそろそろ。美沙は仕事までゆっくりしててな」
午前6時前。ベッドサイドの時計にチラリと目をやった隆志は、私の頬にキスをする。そして床に落ちたスーツを拾い上げ、帰り支度を始めた。
バタンとドアが閉まる鈍い音とともに私は1人、部屋に取り残されてしまう。
その瞬間、涙が溢れてきた。彼はいつもこうやって「仕事に戻る」と言って、早朝に帰宅するのだ。
― おかしい。私、騙されてるのかな。
でも怖くて、本当のことなんて聞けるはずがない。…そのときだった。ベッドサイドに何かが落ちているのを見つけたのは。
「あれ…。隆志の免許証だ」
私はそれを拾い上げると同時に、ある作戦を思いついたのだった。
この記事へのコメント
鈍臭い世間知らずなお嬢様が勘違いしただけよね。