2022.07.26
男女上京ヒストリー~12年目の悲哀~ Vol.1数日後。久々に登校した私が目にしたのは、大和の机の上に飾られたユリの花だった。
「大和くんね、自転車に乗りながら千紘の電話に出て、海に落ちたらしいよ」
「えー。マジ?じゃあ千紘が電話しなかったら、死ななかったってこと?」
目を真っ赤にした私が教室に入ると、ひそひそ話をしていた女子たちがとっさに「おはよう」と作り笑いを浮かべてくる。無言で席に着いた私に、クラスメイトの亜美が駆け寄ってきた。
「…千紘のせいじゃないから」
しかし彼女の声をさえぎるかのように、大和の親友である浩二が大声で怒鳴り込んできた。
「お前のせいで大和は死んだんだ!」
浩二の言葉で、クラス全体に重い雰囲気が漂う。すると亜美がその空気を打ち破るかのように、バンっと机を強く叩いて立ち上がったのだ。
「はぁ…!?あんた千紘の気持ち考えなよ!」
浩二が何かを叫び、亜美が彼の頬を平手打ちする姿がスローモーションで見えた。
それからのことは、覚えていない。
大和が死んでから、私はどこに行っても責められているような気がした。
だから卒業すると同時に、高校時代の友人とは縁を切った。そして地元から逃げるようにして、上京を決めたのだった。
◆
「千紘、どうしたの…?」
我に返ると、幸太郎が私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「あっ…。ごめん」
「もしかして、泣いてる?」
「え?」
目に手をやると、いつの間にか涙が溢れていた。
「ごめん、突然だったよな。俺も無神経すぎた。すぐ別れるんじゃなくて、一旦距離を置こう」
そう言って幸太郎がうつむく。その姿を見て、私は自己嫌悪に陥った。
私は今、幸太郎との別れが悲しくて泣いていたんじゃない。大和のことを思い出して泣いていたのだ。
「…わかった、別れよう。幸太郎、今までありがとうね」
「えっ!?」
驚いてグラスを落としそうになっている幸太郎を残して、私は店を飛び出した。
― あぁ。私、何してるんだろう。
トボトボと歩きながら、ショーウインドーに映った自分の姿を眺める。髪の毛はボサボサで、1ヶ月以上メンテナンスしていないまつエクは、ほとんど抜け落ちていた。
さらに幸太郎にプレゼントしてもらったプラダのパンプスには、無数の傷が刻まれている。
18歳の頃、心の底から憧れていた東京。しかしその場所を歩いているのは、どう見ても無様なアラサー女だった。
六本木ヒルズを出てタクシーに乗ろうとしたそのとき、電話が鳴る。
スマホの画面を見ると、会社の上司からだった。
「夏原さん。さっき入れてもらった原稿、ちょっとヒドすぎ。構成もグチャグチャだし。明日の朝までに直して再入稿して」
「明日、ですか…」
「はぁ」という短いため息とともに、一方的に電話を切られたが、またすぐに着信があった。上司だと思った私は、とっさに電話に出る。
「もしもし夏原です。すみません!原稿は明日中に…」
「…千紘?」
「えっ!?どなたですか?」
「よかった、電話番号変わってなくて。亜美だよ。…12年ぶり、だよね」
上司だと思って出た電話の相手は、高校時代の友人・亜美だったのだ。彼女とも、地元を出るタイミングでそのまま疎遠になっていた。
「久しぶり。どうしたの?」
「あのね。私、結婚することになったんだ。千紘には報告しておきたくて」
「えー!おめでとう!相手は?どんな人なの?」
私は涙をぬぐい、できるだけ明るい声で祝福する。…しかし亜美から発せられたのは、思いもよらない男の名前だった。
「私、浩二と結婚するの。それでね、千紘には結婚式に来てほしいなって思ってて」
大和の死を「私のせいだ」と責め立てた男の顔が浮かぶ。私は何も言えず、その場に立ちすくんだ。
▶他にも:夫がソファの下で見つけた、動かぬ証拠。妻に浮気を問い詰めると、予想もしなかった“暴露”を始め…
▶Next:8月2日 火曜更新予定
高校時代の親友からの思わぬ報告。そんな亜美も、東京で苦しい思いをしていて…?
メインディッシュを平らげ、〆のパスタが運ばれてくるまで
えーー、イタリアンでパスタは〆?とかではないんだけど。サービスされる順番逆だし。こういう所、グルメ雑誌なので書き手側も少し知識があったほうがいいのにと思ってしまった!ここだけかなり残念。
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