今日のフライトでは七海、莉里子ともにビジネスクラスの担当だった。
名刺は、その際に莉里子がお客様からもらったものだ。
「IT関連の社長と弁護士。どっちがいいですか?大学の友達同士で乗っていた弁護士の方が話弾みそうですよね」
ビジネスの場合、エコノミーに比べてお客様一人ひとりと関わる機会が多い。
色白な肌に艶やかな黒髪、太眉にぽってりとした唇。莉里子の容姿は同性から見ても色っぽい。それでいて人懐っこいので、お客様も声をかけやすいのだろう。
彼女は、機内での出会いをうまく利用するタイプで、最近別れた恋人も元お客様のイギリス人だ。
「莉里ちゃん、ハリーと別れてから彼氏いないんだっけ?」
「彼と別れてからは誰とも」
莉里子は情熱的に恋愛に走るタイプで、いつもハンターのように誰かを追っている。
「でも、いろいろな経験と反省から、私、もう見た目で選ぶのはやめました」
そう言いながら、該当のLINE IDを探し、慣れた様子でメッセージを打ち始めた。
「七海さんも仕事に理解のない男なんてさっさと忘れて、新しい出会いを見つけたほうがいいです。あ、もう返信きた!」
20分後。
「嬉しいなぁ。さっきまで同じ飛行機に乗っていたCAさんたちとご一緒できるなんて」
七海と莉里子の前に、LINEで呼び出した男性陣が現れた。
「急にご連絡しちゃってすみません。久しぶりのハワイなので、2人だけも寂しいかなって」
3人は同じ大学出身で、ヨット部だったという。
ヨットというワードに、七海はサーファーだった新太を否が応でも思い出してしまう。
「何を召し上がりますか?」
だが、そんな記憶を必死で打ち消し、七海は穏やかに微笑んだ。
CAたるもの、どんなに気分が沈んでいても、反射的に笑顔を作ることができる。筋肉が記憶しているのだ。
「じゃあ、ビールと、食事はオススメで!」
話も弾み、お酒も進んだ。途中、七海と莉里子は2人そろって化粧室に立った。
「意外と楽しいんだけど。呼んでくれてありがとう!」と七海が言うと「やっぱり?私も」と莉里子が答えた。
「話題も豊富だし、レストランでの振る舞いもスマート」
彼らと話していると「男は新太だけじゃない、他にもいい男はたくさんいる」と七海は思えてきた。
「真ん中の彼は既婚だからなしでしょ。右と左、日本で会うなら七海さんどっち?」
莉里子がメイクを直しながら聞く。七海はその様子がおかしくて、吹き出して笑った。
「やだ、莉里ちゃん。ビーフ or チキン?みたいに言わないでよ」
すると莉里子が七海の手を取り、真顔で言う。
「何言ってるんですか。人生は取捨選択です。七海さん、次の恋と婚活、がんばりましょ!」
その言葉に、七海の中で何かが吹っ切れたような気がした。
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この記事へのコメント
後輩ちゃんが言うように、まるでこそ泥のように合鍵で私物を取りに来てLINEで別れを告げるって、最低男ですよね。
これからの展開がとても楽しみ。
ただ一点。CAとなるとなぜか古臭い偏見やアンチコメントが必ず出ててくるから嫌だなぁと。
最後の、ビーフ or チキンみたいに言わないでよ、にメチャクチャ笑った😂😂