2022.08.04
Beef or Chicken~空の上の恋愛模様~ Vol.1洗面所にあったアラミスのメンズコスメ、グルーミンググッズ。
ベッド脇のコンセントにささっていたサーフェスの充電器、クローゼットに何着か置いてあったスーツやシャツ、部屋着…。
跡形もなく無くなっているのは、付き合って1年になる恋人のもの。
― 衣替え?それとも出張があって取りにきたとか?
新太から何か連絡が入っているかもしれないと思い、七海はバッグからスマホを取り出す。
すると、案の定彼からのLINEが来ている。
急いでメッセージを確認すると、さっき空港から七海が送った『ただいま、帰ってきたよ♡』の下に、あまりにもそっけない一文があった。
『七海、ごめん。別れよう』
七海のあらゆる思考が停止する。そして、次の瞬間、反射的に新太に電話をかけていた。
「新太、ねえ、どういうこと?」
◆
翌週。
「七海さん、やっぱりハワイは最高ですねー。はい、カンパーイ!」
シカゴから戻り、3日間のオフの後、七海はハワイ便の乗務でワイキキにいる。目の前に座っているのは、2年後輩の莉里子、28歳だ。
ホテルでお風呂に入り、仮眠を取った後は、ルームサービスでも取ってゆっくりしようと思っていたのだが。
「えー!久しぶりのハワイなのに、もったいないから、行きましょ!」
莉里子に半ば強引に誘われ、彼女のお気に入りのレストラン『DUKE’S WAIKIKI』にやってきたのだった。
ワイキキの美しいビーチを目の前に眺め、莉里子はご機嫌でカクテルのグラスを傾けている。
― はぁ…疲れた…。
七海が、ため息をつきながら浮かない顔をしていると、莉里子がケールとロメインのシーザーをとりわけ、目の前に差し出した。
「で?3日間の休みは、ひたすら泣き暮らしていたってことですか?」
「まぁ、落ち込んだよね…」
先週、シカゴから戻った直後に届いた、新太からの突然のお別れLINE。七海は理由を聞くために電話をかけた。
「どうして、急にそんなこと言うの?」
「急に思ったわけじゃないんだよね…。七海のことは好きだけど、最近、すれ違いでほとんど会えないし」
新太は、七海と同じ30歳。メーカーに勤める彼は、残業はなく、土日もしっかり休むことができる。サーフィンが好きで、少し時間ができると季節を問わず、いい波を求めて茨城や湘南に出かけてしまう。
共通の友人の紹介で知り合い、付き合い始めて1年とちょっと。
コロナ禍は、七海のフライトが少なかったし、飛んだとしても国内ばかりだった。スタンバイの日も多く、2人で過ごす時間は十分取れた。
しかし、今年の春頃から、少しずつフライトが増えた。最近では元通りとまではいかないまでも、スケジュールに国際線のフライトも入るようになった。
「フライトの予定って、希望とか出せないの?休みは平日ばっかりだし、たまの日曜日に家にいてもスタンバイだとどこも出掛けらないし」
新太は、次第にお互いの休みが合わないことに文句を言うようになった。
「前から聞きたかったんだけど、七海ってずっと仕事を続けるつもりなの?」
結婚の2文字は出てこなかったが、将来のことを気にする口ぶり。
「体力的に厳しいと思うこともあるけど、私、この仕事が好きなの」
この時以降、なんとなく新太との間に隙間ができたような気がしている。
「すれ違いが嫌なんて…、どうしてCAを彼女にしたんだって感じですね。その男は!」
莉里子が怒り気味に言った。
「この前、言われちゃったんだよね。結婚したら海の近くに住んで、休みの日は家族でサーフィンしたり、キャンプしたりするのが夢だって。でも、君とは休みが合わないから無理そうだって…」
そういう七海の目線の先にはワイキキの青い海がある。次第に、彼女の瞳にうるうると涙が溜まっていく。
「七海さん、そんな男こっちから願い下げですよ。恋人が留守の間に合鍵で泥棒みたいに、私物を取りに戻り、LINEで別れを告げるって、男としてサイテー」
莉里子はプリプリと文句を言いながら、メニューを手に取った。
「七海さんがCAを辞めるわけない、って思っているから、追いかけてこないような理由を付けているんです。あ、もしかしたら他に女ができたのかも」
莉里子の言う通りだと、七海は頭ではわかっている。
彼のやり方はズルいと思う。
だが、それを認めてしまうと、これまでの楽しかった1年間の思い出までもが、消えてしまうような気がした。
海で子どものように楽しそうにはしゃぐ彼の姿が、七海の脳裏に浮かんでは消えていく。だが、諦めるしかない。
「今回のハワイは、失恋旅行ならぬ失恋フライトって感じだね」
七海がおどけて言う。
「とりあえず、お肉食べて元気出しましょ」
莉里子が明るく話題を変える。
「円安でなんでも高いですけど、もうこうなったら、ケチケチしないでパーっといきましょう」
そう言いながら、彼女がバッグのポケットからあるものを取り出した。
「じゃじゃーん!」
莉里子が七海の目の前に2枚の名刺を並べた。
そして、「今日フライト中にいただいた名刺です」とニヤリとした。
「これ見て!ほら」
そのうちの1枚を裏返すと、手書き文字で「ステイ中にご飯でもご馳走させてください」とあり、LINE IDが書かれていた。
「え?まさか呼ぶの?」
「呼びますよ。ご馳走させてくださいって書いてあるもの」
後輩ちゃんが言うように、まるでこそ泥のように合鍵で私物を取りに来てLINEで別れを告げるって、最低男ですよね。
これからの展開がとても楽しみ。
ただ一点。CAとなるとなぜか古臭い偏見やアンチコメントが必ず出ててくるから嫌だなぁと。
最後の、ビーフ or チキンみたいに言わないでよ、にメチャクチャ笑った😂😂
【Beef or Chicken~空の上の恋愛模様~】の記事一覧
2022.10.20
Vol.13
「こんな女だったの?」婚約した途端、露呈した女の本性に、ハイスペ男は嫌気がさし…
2022.10.19
Vol.12
CAだって恋がしたーい♡「Beef or Chicken~空の上の恋愛模様~」全話総集編
2022.10.13
Vol.11
「どういうつもり?」デート帰りに抱きしめられたけど進展なし!不安になった30歳女は…
2022.10.06
Vol.10
彼と箱根に行った翌日、目覚めたら1人だった!スマホには、彼からのメッセージが…
2022.09.29
Vol.9
気になる彼から、突然旅行に誘われて…。迷った挙げ句行くことにしたら意外な展開に…
2022.09.22
Vol.8
2ヶ月ぶりに元カレから連絡が。ゴハンに行こうって言われたけど、これってどういう意味?
2022.09.15
Vol.7
「こんなもの買うの?」ファーストクラスに乗る35歳男。CAも驚く、お金の使い方とは
2022.09.08
Vol.6
「え、物価が高すぎ!」寿退社しニューヨーク駐在妻になったものの、こんなはずじゃなかった…
2022.09.01
Vol.5
「え、そんなことで離婚したの?」35歳女が許せなかった“夫の生活習慣”とは
2022.08.25
Vol.4
「見てはいけないものを、見てしまった…」CAがステイ先のホテルで目撃した禁断のモノ
おすすめ記事
2019.02.16
Who?
“絶望”を運んできた、1本の電話。突如降りかかった4,500万の借金で、狂い始める男の人生とは
- PR
2024.11.20
銀座で女性と過ごす夜。アイリッシュウイスキーが引き寄せた、2人だけの密やかな高揚とは
2016.05.01
ヤバい家計簿
ヤバい家計簿:毎年使わなくてはいけないお金が億単位の男
2022.03.26
Age33~分岐点の女たち~
結婚5年、別居を決意した女。誰もが羨むパワーカップルだったのに…
- PR
2024.11.18
総勢100名に当たる!西友&東急ストアで「スプリングバレー」を買って東カレ厳選グルメをもらおう!
- PR
2024.11.21
クリスマスは絶景を望むホテルデートへ!彼女がワッと喜ぶ、とっておきの夜を丸の内で過ごすなら…
- PR
2024.11.22
渋谷在住の29歳OLが自分へのご褒美に♡と、奮発したあるモノとは?
2019.07.24
もう1人の私
「クズ男は利用するだけ」男を憎む有能な美女の、心に秘めた意外な一面
- PR
2024.11.22
2024年の締めくくりはこれで決まり! 美味でゴージャスな「アメリカンビーフ」を楽しめるステーキハウス4選
2021.03.08
ヤドカリ女子
ヤドカリ女子:仕事も男も手玉に取る28歳女。彼女が決して自宅に帰らない理由とは
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
この記事へのコメント