2022.07.25
公園の魔女たち〜幼受の世界〜 Vol.1「俺も葉月も、中学校受験も大学受験も大変だったじゃない?華ちゃんは小学校受験させて、一貫校でのんびりさせてあげるのなんてどうかな?」
「小受かぁ。でもきっと大変だよね?私、華が4歳になったら仕事復帰しようと思ってるけど大丈夫かな?」
「いや、分かんないけどさ。まだ1歳だし、ゆっくり考えようよ。まあ、そりゃ幼稚舎に入れたら一番いいけど。どうにかなんないかなぁ」
◆
その時の大樹とのやりとりを、私は敦子さんとマリエさんに話した。
「って感じでね。確かに私も主人も慶應だけど、お互い大学から医学部と看護で、それまでは福岡と群馬の地方進学校出身だから。
幼稚舎は受けるかもしれないけど、記念受験かなぁ。
あとは華がもう少し大きくなってきてから、性格に合わせて志望校を考えようと思ってたの。敦子さんの聖心とか、マリエさんの青学も憧れるよ〜」
ヘラヘラと笑う私とは対照的に、2人の表情は険しくなるばかりだ。
「ねえ?だったらやっぱり、幼稚園受験は必須じゃない?幼稚舎に受かる子のほとんどが、いわゆる名門幼稚園の出身だよ。
それに、青学を受けるなら落ちる前提でも付属幼稚園を受けておいた方がいいし、聖心受けるならキリスト教の幼稚園に入れておかないと。
みんなそうやって、今のうちからチャンスを増やそうとしてるんだよ」
群馬のご近所保育園でボンヤリとした幼少期を過ごしていた私にとっては、全く理解不能な内容だ。
けれど、身を乗り出してそう熱弁するマリエさんは、とても冗談を言っているようには見えない。
そして、そんなマリエさんに続いて敦子さんがつぶやいたセリフは、意外にも私の心にスッと届くものだった。
「ご家庭それぞれの考えがあるから、絶対ってわけじゃないけど…。でも、こうは思わないかな?
幼稚園受験って、小学校受験するための大きなチャンスなの。それなのに、全力を尽くしてあげなくていいの?…華ちゃんのために」
華のため。
子どものため。
そんなふうに考えたことのない母親が、この日本に…東京に…港区に、1人だっているだろうか?
芝浦の愛育病院で初めて華をこの手に抱いた、2月の明け方。あれから私は毎日、何度だって繰り返し思っている。
この子のためなら、なんだってできる…と。
だからこそ、天職だと思っている看護師の職だって、こうして一旦辞めまでしたのだ。
足元でどんぐりを拾っていた華は、いつの間にか少し離れた場所まで遠ざかっていた。
私の目線を感じるや否やすぐに、祥子ちゃんとエミリちゃんと一緒にこちらへ駆け寄ってきて、ポケットにいっぱい拾い集めたどんぐりや木の実を見せてくれる。
「ままー、どんぐい!はなちゃんがひよったの」
そう言って私を見上げる華のくしゃっとした笑顔は、口元から小さな真珠のような乳歯がのぞき、本当に天使のように可愛らしい。
耳元で、もう一度敦子さんの声が聞こえた気がした。
『全力を尽くしてあげなくていいの?…華ちゃんのために』
気がつけば私の口からは、自分でも意外な言葉がこぼれ落ちていた。
「幼稚園受験、した方がいいのかな…」
自分自身に問いかけるような、小さな小さな声だったはずだけれど、敦子さんとマリエさんは真剣な顔で深くうなずいている。
「良かったら、あたってみて。私たちが行くお教室」
そう敦子さんが言うのと同時に、LINEメッセージが届く。
メッセージには、「ほうが会」というお教室の名前とともに、固定電話の番号が記載されていた。
「ありがとう」と言いながら顔を上げた私に、敦子さんがもう一度言った。
まるで、何かの呪文のように。
「港区は、小学校受験からじゃ遅いの。子どものために、お互いがんばりましょう」
それが“幼稚園受験”という、常識外の異世界へと誘う呪文であることを…。
この時の私はまだ、全く理解していなかった。
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