2022.05.28
東京レストラン・ストーリー Vol.13◆
知紗子は、点心がたくさん並ぶメニューを楽しそうに眺めている。
「ねえ、せっかくだし全種類制覇しない?」
「いいよ。思ったよりも種類あるね」
「転職おめでとう」と僕たちはシャンパンで乾杯する。そして、小籠包や野菜蒸し餃子などいくつか点心を注文した。
早速、テーブルに大きな蒸籠が運ばれてくる。
蓋を取ると湯気に包まれたつやつやの白、薄緑、黄色のカラフルな蒸し餃子たちが現れる。
口に運ぶとプリプリした柔らかい皮の中からトリュフの風味が鼻に抜けていった。
「こうやって美味しい物食べていると、海外旅行行きたくなるよね」
「気軽に海外に行けるようになったら、知紗子はどこに行きたい?」
「うーん。スウェーデンとか北欧かなあ。最近後輩に教えてもらってヘヴィメタにハマってるの」
「俺も一度本場のメタルは聞いてみたい。それにスウェーデンと言えばザリガニ料理も気になるな」
美味しいご飯を楽しみ、他愛もない話をしながら好きな人と過ごす時間は、何物にも代え難い。
僕たちはどんどん注文する。どの点心も繊細な味と見た目でまるで宝石のようだ。その料理1つ1つに手間がかかっていることを感じる。
「この大根餅、今まで食べた中で一番美味しいかも!」
確かに大根の風味がしっかりと感じられる。表面のカリカリした焼き目と大根のシャキシャキ感が相まって口当たりもいい。
海老の蒸し餃子もつるんとした皮と海老の肉厚な身の食感がたまらない。口の中で大ぶりの海老がプリっと弾ける。
「もうお腹いっぱいだ。全然制覇できなかったね…」
「私は、最後に中華風ピロシキだけおかわりして、デザートにしようかな」
食べすぎてお腹がはち切れそうだ。僕はお手洗いに行くために席を立った。
◆
「あれ…?」
お手洗いから戻ると、片付けられたテーブルの上には、ブーケが置かれていた。グリーンの中に、白や黄色の花が散らされているシンプルな色合いのブーケだ。
「これ知紗子が準備してくれたの?」
「うん、転職おめでとうと…」
そう言って、彼女は少し息を整えた。僕たちの間には、一瞬静かな間が流れた。
「私と結婚してほしいです」
僕は想定外の言葉に驚いて目を見開いた。
「先に言おうと思っていたのに先越されたな…」
もちろん、結婚するなら知紗子しかいないと思っていた。
でも、転職して、もっと年収が上がったら結婚、と何となく考えていたのに、まさか彼女からプロポーズしてくるとは…。
僕は、一生懸命言葉を繋げる。
「本当に僕でいいの?就職がうまくいかなかったから、ずっと自信が持てなかったんだ」
「そうやって悩んでいると思っていたから、先に私から言うことにしたの。慶太は、誰よりも努力家だよ。考えすぎる慎重派な一面あるけど、そんなところが大好きだから」
そう言って僕に白い封筒を手渡してきた。
長い長い手紙が、見慣れた丁寧な字で何枚もの便箋に綴られていた。ある一節でハッとした。
『慶太が、会社名とかお互いの実家を比べて、ずっと悩んできたことを知っています。でも私にとって、そんな肩書なんてどうでも良いものです。かけがえのない学生時代を一緒に駆け抜けられた人が、慶太で良かったです。』
― 勝手に彼女の家柄にコンプレックスを感じていたけど、気にしていたのは、僕だけだったな。
「ありきたりなセリフだけど、一生幸せにするって誓うよ」
小さな手をぎゅっと握った。
すると、知紗子の目からすっと一筋の涙が流れた。そんな彼女のことを、たまらなく愛おしいと思った。
▶前回:案外、幸せは近くにあったけれど・・・。26歳男が、どうしても忘れられない女性とは
▶1話目はこちら:港区女子が一晩でハマった男。しかし2人の仲を引き裂こうとする影が…
この2人なら絶対上手くいくね!
や、本当にレストランストーリーは内容が素晴らしい♡
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