2022.04.20
こんな僕のファム・ファタル Vol.1「アキヒトさんですよね!」
14時。明人はコンラッド東京のラウンジ『トゥエンティエイト』で、メッセージを送って来た女性“マイ”と待ち合わせをした。
先に着いたのでコーヒーを飲んで待っていると、マイがハァハァと息を切らしながらやってきた。慌てて来たのか、汗だくで化粧も崩れている。
― 必死だな…。
背は低め、ふっくらとした童顔だが決して美形ではない。パグ犬という例えがしっくりくる雰囲気だ。
33歳というが、ネイビーのパンツスーツに身を包んだその姿は、一歩間違えば就活生のように見える。
そんなあか抜けなさをまとった彼女は、明人が恋愛対象として意識することはないタイプだった。
中の下といったところか。
「すみません、急いで来たもので…」
互いの自己紹介を終えた後、マイは、おもむろに明人の向いに腰を下ろした。そして、すぐスタッフを呼んだ。
「クラブハウスサンドと、ロイヤルミルクティーを頂けますか」
「え?」
「すみません…お昼、口にしていなくて。お腹ペコペコで死にそうなんです」
明人は思わず固まってしまった。その反応に、マイは恥ずかしそうに顔をクシャっとさせる。
「あ…アキヒトさんも何か召し上がりますか」
「では、チョコレートケーキを…」
「いいですね!私もデザートに食べちゃお」
マイは追加でケーキを2つ注文した。
正直、驚いた。初対面同士のデートは普通、ドリンクだけか、相手の顔色を見て注文するものだろう。
しかもここはホテルのラウンジ…。
彼女が値段を気にする素振りも見せないのはつまり、払う気が一切ないということだろう。
― 浅ましさは予想通り。だが、まさかここまでとは…。
飲食代はもちろん自分が払うつもりであったが、正直引いてしまった。
明人は、到着したクラブハウスサンドを嬉しそうに頬張るマイを冷ややかに見つめる。
その視線に気づいたマイは照れ笑いし、明人も目を逸らした。
「…ねぇ、アキヒトさん。私たち、会ったことありますよね」
マイはナプキンで口元を押さえながら、上目遣いに明人の顔を見た。
「いや、ないですよ」
古典的なテクニックに惑わされはしないという意思表示で、明人は即答する。
「そうですか?でも、アキヒトさん素敵な人だから、勘違いということはないと思います」
「…」
当然、彼女の記憶など一切ない。
それでも屈せず、マイはさらにぐいぐい距離を詰めるがごとく話しかけてきた。
だが、テンションが落ちていた明人は生返事をするのが精いっぱいだった。
― 仕事だと言って帰るか…。
明人の腕に光るランゲの文字盤は、15時を示している。お開きを切り出そうとしたその時だった。
「あっ!!」
マイが、ちらりとスマホに目をやりとっさに席を立った。
「すみません!急用ができました…!」
「は?」
「今日は楽しかったです。また機会があればよろしくお願いします」
マイは逃げるように彼の前を去っていく。明人が返事をする隙はなかった。
目の前にはキレイに平らげたサンドイッチとケーキの皿。ロイヤルミルクティーはお代わりした分もしっかり飲み干している。
嵐のようにやってきて、そして去っていった彼女にしばし呆然とする。
― まさか、食い逃げ…
いや、脈を感じられず、割り勘を恐れて逃げて行ったのかもしれない。
いずれにせよ明人は体全体が怒りで震えた。
高望み婚活女をあざ笑うために呼び寄せたにもかかわらず、こんな不快な思いをするとは…。
早くこの場を立ち去りたいと、明人はチェックを依頼する。
だが…。
「お連れの方より、既にお支払いを頂いております」
「え…?」
やって来た会計スタッフの言葉に耳を疑った。明人は、すぐに理解できない。
初対面の男の誘いに速攻で乗ってきて、互いに楽しくない時間を過ごした末に、2人分の食事代金を全額支払って帰っていった彼女。
食い逃げだったほうが、目的がはっきりしている分、まだましに思えた。
「なんなんだ、アイツは…」
怒りなのか、混乱なのか、羞恥心か。
明人はどうしようもない感情に支配され、ただただ呆然と立ちすくむだけだった―。
▶他にも:彼のお母様のプレゼントまで一緒に買いに行ったのに…。男が女を“嫁候補”から外した納得の理由
▶Next:4月27日 水曜更新予定
不可解な女の行動に募るいらだち。彼女から再びデートに誘われた明人は…
この記事で紹介したお店
トゥエンティエイト/コンラッド東京
【こんな僕のファム・ファタル】の記事一覧
2022.07.06
Vol.13
「私は悪女…?」10年間想い続けた相手を落とすために、女が猛アプローチの裏で企んでいたコト
2022.07.05
Vol.12
ついに婚約した2人。こじらせ男と敏腕女社長の恋の結末は?「こんな僕のファム・ファタル」全話総集編
2022.06.29
Vol.11
不祥事で退任したIT社長。「私が養ってあげる」という彼女の逆プロポーズにプライドをへし折られ…
2022.06.22
Vol.10
美人モデルに過去のセクハラを暴露された男。「パパ活狂いおじさん」と叩かれた怒りに任せて…
2022.06.15
Vol.9
「子どもを産むなら若いほうが」付き合いたての恋人の無神経な発言に、アラサー女は…
2022.06.08
Vol.8
“ナシ”な女と酒の勢いでベッドを共にした男。フェイドアウトを試みるが、彼女のことが忘れられず…
2022.06.01
Vol.7
「こんな女、大嫌いなはずなのに…」ムードあるバーで2人きり、こじらせ男をオトした女の一言とは
2022.05.25
Vol.6
「2軒目とホテルの予約も完璧…」憧れの美女をモノにしようと臨んだ決死のデートで男を襲った悲劇
2022.05.18
Vol.5
食事会で意中の人が美女とイイ感じに…。彼を取られたくないあまり、女が皆にばらした彼との秘密
2022.05.11
Vol.4
“会社社長”を切り札にこぎつけた憧れの美女とのデート。男が屈辱を受けた予想外の出来事とは
おすすめ記事
2019.06.23
200億の女
女に総額10億円を貢がせた、魔性の男。騙し続けてきた男が最後に選んだ獲物は…「200億の女」
2017.09.30
恋愛中毒
恋愛中毒:平日昼間にしか許されぬ、電話越しの愛の囁き。恋に盲目な二人の禁断の誓い
2023.03.21
AM9時、六本木のカフェで
AM9時、六本木のカフェで:仕事を理由に朝早く出かけた夫が、カフェで女と会っていた。相手はまさかの…
2017.10.12
エリート亮介の嫁探し
エリート亮介の嫁探し:“三高男”の半年間限定・婚活プロジェクトが、いざ始動!
2018.01.29
“ゆとり”のトリセツ
“ゆとり”のトリセツ:高学歴・高収入・容姿端麗。誰もが羨む外コン美女の、地味すぎる生態
2021.11.02
シアワセの最適解~世帯年収3,600万の夫婦~
シアワセの最適解~世帯年収3,600万の夫婦~:東京で億ションに住んでも、幸せからはほど遠い理由
2019.09.28
東京男子図鑑
若手商社マンを襲った絶望。背伸びした記念日デートで、彼女に言われた屈辱のセリフとは
2019.02.09
オトナの恋愛論~宿題編~
「どうして私が、フラれたの…?」“愛されキャラ”のモテ女が、交際1年で男に別れを告げられたワケ
2019.03.04
最後の恋
結婚10年目、冷めきった夫婦関係に爆発寸前の妻。ジムで出会ったバツイチ男の誘惑で呼び起こされた恋心
2019.02.17
実家暮らしの恋
「今夜も食事だけ…?」交際中の彼女を決して家に誘わない29歳男が隠し持っていた、ある秘密
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント