アメリカの大学受験に「成功する人」と「失敗する人」の違い
近年、アメリカの大学の受験事情はかつてに比べて様変わりしている。
たとえば昨年のハーバード大学の場合、5万7,000人以上が志願したなかで、合格者はわずか1,968人。前年の合格率4.9%からさらに低い、3.4%という結果だった。
これはコロナ禍の影響も多分にあるが、志願者は増加しているにもかかわらず、同校で史上最も低い合格率だったという。
以前の記事「インターナショナルスクールの実態」で取材した渥美信之さん(仮名、50歳)に、その辺の事情を聞こうと再取材を申し込むと、快く応じてくれた。
渥美さんの長男はアメリカのハーバード大学大学院で学び、次男はロチェスター大学の学生で、大学院への進学を目指している。
「大学卒業後の初任給を見てもわかるように、アメリカ社会における学歴格差は日本の比ではありません。
なかでも大学ランキング上位に挙がるトップスクールには、そのステータスを求めて世界中から優秀な志願者が集まってきます。
また、近年のアメリカ経済の成長が後押しになって国内のミドルクラスが急増しており、これがまたトップスクールへの熱を高め、ハードルをますます高くしている」(渥美さん)
2019年にはスタンフォード大学やイエール大学、南カリフォルニア大学(USC)、ジョージタウン大学といった、有名大学を舞台にセレブ親が絡んだ“不正入学事件”が明るみになった。
しかし今のアメリカの大学事情を考えると、そうした不法ビジネスが横行することに何ら不思議はない。
加えて、SATやACTといった共通テストの有意性が近年では疑問視されている。
というのも、ペーパーテストを重視して入学者を選別するよりも、高校3年間の成績を重視する方がより優良な学生を生み出すという研究結果が複数から出ているのだ。
その内容に、トップスクールの関係者も関心を寄せているという。
昨年のコロナ禍ではアメリカの多くの大学が共通テストの実施を中止したが、それを機に入試の評価方法への見直しが加速していくと見られる。
「そもそもアメリカの大学は日本の大学のように、入試テストの結果さえ良ければ合格できるというような、一発の試験で全てが決まる受験システムではないんです。
アメリカの共通テストは年に複数回行われ、その範囲内なら高得点が出るまで何回受けようと構わない。
そしてアプライ時に提出する高校在籍時の成績や推薦状、課外活動の有無、エッセイの内容をとても重視します。過去の実績や姿勢から、学生の意欲と伸びしろを見定める傾向があるんです。
大学の入試担当者は提出された資料から、仮に学生が入学した後の成績はどうなるのか、卒業後も社会で活躍しそうかを推し量り、大学の知名度や寄附面にどれだけ貢献するかを問うわけですね。
ですのでトップスクールと呼ばれるような競争率の高い大学では皆、そうした評価をされることを知っていて、高校時の成績もほぼ満点、もちろん共通テストも満点といった学生ばかりです。
それまで海外受験に向けて準備してこなかった日本人学生にとっては、アンフェアな受験システムと思うかもしれません」(同)
参考までにトップスクールの常連校のひとつ、スタンフォード大学の出身者を見てみると、グーグル、ヒューレット・パッカード、ナイキ、GAP、Firefox、ペイパル、米ヤフーなどの創業者がいる。
トップスクールともなると、こうした逸材になり得るかどうかを見極められるのだ。
冒頭で紹介した新海さんの息子のような学生が今さら勇んで勝負を挑み、いくら浪人して受験勉強をしても時間の無駄というわけだ。
とはいえ、あえて名門大学の合否で勝負するだけがアメリカの大学受験ではないと、渥美さんは言う。
日本のように東大や京大、あるいは早稲田や慶應に受からなかった、イコール敗北ではない。
むしろ高校の成績にある程度の自信があれば、少しランキングの低い大学や地域に根ざした小さな大学を選ぶという選択肢もアリなのだ。
「アメリカでは自分のレベルにあわせて5~6校受けて、第一志望校に合格できなくとも、合格した大学の中から条件の良い大学を選ぶのが一般的です。
第一志望の大学では相手にもされなかったのが、別の大学では成績優秀者として奨学金を貰えるケースもありますから」(同)
奨学金にはいくつかのケースがあるが、返済義務のないケースもあり、学費が半分あるいは3分の1で済む場合もある。
そうして一度は大学に入り、猛勉強して成績優秀者として卒業。大学院でマスター、さらにPhD(ドクター)の資格を取る過程で、よりランキングの高い学校へとステップアップする人も少なくない。
トップクラスのビジネススクールでMBAを取得する者もいる。
またアメリカの大学では多くがリベラルアーツプログラムを導入しており、在学中に思わぬ進路と出会う可能性もあるだろう。
入り口や分岐点は数あれど、頂点では繋がる仕組みになっているのがアメリカの大学だ。
一方で、日本はどうだろうか。
ステータスを得るには一流大学に入学する事が唯一無二の策であり、そこで目的はほぼ達成され、燃え尽きる学生は多い。
冒頭で紹介した新海さんの息子は、決して逃げていたわけではなく、アメリカにある無数の可能性の1つに賭けようとしていたのかもしれない。
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この記事へのコメント
日本とアメリカ、両方の大学を卒業した私は、親に感謝しかないです