2021.11.19
甘い墜落 Vol.1「あ、掛川、ちょっといいか。会議室に」
翌週。電話とキーボードの音が響く午後2時の職場で、美津は編集長に声をかけられた。
「は、はい…!」
心臓が、バクバクと音を鳴らす。
編集長が会議室に呼び出すのは、よっぽどの話があるときだと決まっている。誤報を出してしまったとか、名誉毀損で訴えられたとか、そんな類の話だ。
「掛川、驚くかもしれないが…」
編集長の眉間に、くっきりと「川」の字が浮かんでいる。咳払いをひとつして、彼は重い口をひらく。
「異動だ。来月から、隣の編集部に。婦人雑誌の担当をしてくれ」
「へ?」
美津は、思わず気の抜けた声を出してしまった。
隣の婦人雑誌編集部は、年に4回だけ主婦向けの分厚い雑誌を出す部署だ。グルメやファッション、旅行などについてゆるゆると取材をしているイメージがある。
― 左遷?
その2文字と同時に美津の頭に浮かんだのは、自分が3ヶ月前から「そろそろ結婚するんですよ」と周囲に話していたことだった。
― え、私が結婚するから、産休に入る前に異動ってこと…?
そんなの、この時代に許されるはずがない。ムッとして反論しようとしたとき、編集長の方が先に口をひらいた。
「うちの雑誌、業績が良くなくてね。ご存知のように」
◆
1ヶ月後。美津は取材用のノートを片手に、恵比寿のビルの前に立っていた。
― え、ここにバーがあるっていうの?
婦人雑誌に配属されて1週間。異動先の編集部は、美津のイメージ通りだった。
週刊誌の編集部と比べて、忙しさはまったくない。時間の流れが3分の1くらいになったように感じられた。
そして、さっそく任されたのは恵比寿にある『BARオノギ』の店主へのインタビューだった。春号の「隠れ家バー特集」に向けた取材だ。
細い階段を下りていくと、重厚感のある扉が見えた。小さく『onogi』と書かれたドアだ。
― ここか。
3回ノックをしてから扉を開ける。カウンターには男性が立っていて、白い布巾でグラスを拭いている最中だった。
その男性こそ『BARオノギ』の店主、小野木誠司だ。
系列のバーを全国に6店舗持つ彼は、バーテンダーとしてはもちろん、経営者としても腕が立つ。
経済誌を長く担当してきた美津としては、経営のノウハウに切り込んだ取材をしたくてうずうずしてしまう。
だが、手元のノートに書いた構成案には「シングルファーザーバーテンダーの素顔」とある。
現在37歳、小学2年生の一人娘がいる彼。その半生を紹介する記事が求められているのだ。
― こういう取材をするのは、ちょっと退屈かも。
本心を隠して笑顔を作り、挨拶をする。
「初めまして。取材を担当します、掛川と申します」
名刺を渡すと、誠司は目尻を下げて何度も会釈した。
「いやあ、取材してもらえるなんて、ありがたいです」
結婚のために女性が仕事をセーブするのが当たり前だと思っている男と、自分らしく生きていきたい女
結婚前に気づいてよかったな~と思いました。
大ちゃんも美津が好きなら、部署異動、美津がよかったなんて思ってる訳ないのに、よかったって内心思うのはいいけど、何度も口に出すのは美津を認めてないっていうか、女性は出産もあるし遅かれ早かれ当然仕事量抑えて家庭に入るでしょ?って聞こえる
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