彼氏との出会いは、1ヶ月前にさかのぼる。
近所にある行きつけの定食屋で、私が日替わりランチをオーダーしたときのことだ。
「可愛いですね」
いきなり隣の席の男性が声をかけてきて、私はとても驚いてしまった。
普段なら無難にスルーするが、その男性の顔が元アイドルの有名YouTuberそっくりの顔立ちだったことに、目が釘付けになってしまったのだ。
― どうして、こんなかっこいい人が私に?
晴子の顔は一般的に整っている方である。しかし、その男性は疑心暗鬼になるほどに、レベルの違う“イケメン”だったのだ。
「俺、冬馬って名前です。よろしくね」
関西弁のイントネーションが板についていて、彼が関東の人でないことはすぐにわかった。その日は、軽い挨拶と連絡先の交換程度で、私が先に店を出ることに。
「晴子~。冬馬は難しいから気をつけなよ」
店を出るとき、店長が耳元でそっと忠告する。しかし、すでに一目惚れしていた私は、店長の言葉をすぐに忘れてしまったのだ。
突然のことで、連絡先を交換してもお誘いはないだろうと思っていたのだが、それは杞憂に過ぎなかった。冬馬はすぐにLINEで、ランチに誘ってきた。
私は有頂天となり、彼にすぐOKの返事をしたのだった。
◆
冬馬から定食屋で声をかけられた翌週。銀座のフレンチで初デートをした。
「ごめんな、晴ちゃん。待たせて…」
そう言って、待ち合わせ時刻より5分ほど遅く来た冬馬。
私は、改めて彼の全身を見たが想像よりも背が低く、少しだけがっかりしてしまった。しかし、白いTシャツと黒いスキニー、そして真っ白なスニーカーがよく似合う。何より、イケメンであることは間違いなかった。
いざ話してみると、冬馬の話のテンポがとても心地よく、ノンアルコールだったが会話が大いに盛り上がった。
「晴ちゃんとおると、楽しいな!」
冬馬は方言の通り、関西の兵庫出身。男子高で伸び伸び育ち、大学はそのまま内部進学をしたらしい。
「趣味は音楽で、サックスが得意」
一般家庭出身の私は、音楽をたしなむには相応のお金が必要だと思っている。
そう話す冬馬を、“おぼっちゃま”だと推測した私の嗅覚は、間違っていなかったのだ。
冬馬は、家業を継ぐことを考えて、大学院に進学するタイミングで上京してきたと話した。見聞を広げるために東京で学び、そして働くことが彼の将来に必要だとご両親が判断したからだ。
私は、この話を聞いたとき“おぼっちゃま”の彼を、必ずモノにしたいと心の中で誓う。
しかし、意を決して狙いを定めた私とは対照的に、彼はデートの帰りにさらっと告白してくれた。
「晴ちゃん、早いと思うかもしれないけど、付き合おう」
こうして、私たちは付き合い始めたのだ。
そこからは、彼の親が所有している最低でも2億円はする分譲マンションの部屋で、週の半分を2人で過ごすことに。
冬馬はコンサル勤務で多忙だったが、機嫌が悪くなることも一切なく、育ちがいい人は穏やかだと感じる日々。
しかし、破局の予兆は私が思ったよりも早く来てしまったのだった。
この記事へのコメント
コンビニとスーパー、70円と130円、60円の差をガタガタ言う男性とは、いくら御曹司でもフェラーリ乗っててもYouTuber のイケメンそっくりでも無理ですが。
何だかイライラした。これ、本当のお金をちは…とか語りだすコメントを誘っているようで。前にもあったね。へんなかねもち連載。