舞台はフランス・パリ。
異国の地で突然、二人の男性から熱烈なオファーを受けることになった綾香(29)。
男たちは甲乙つけがたい魅力的な二人だが、彼女には素直に喜べない理由があった。
綾香は2年前、パリで婚約者を失って以来、恋に臆病になっているのだ。
もう存在しない男の影にすがるか、新たに現れた男を選ぶか…。
最後に綾香が下す決断とは?
これは、ワインがつなぐ運命の5日間の恋物語である。
Day1
― ここから見るエッフェル塔、彼が送ってくれた写真と同じだ…。
アレクサンドル3世橋からエッフェル塔を眺め、綾香は思わずスマホを構える。
IT企業で広報を担当する29歳の綾香は、秋休暇を利用して花の都・パリを訪れている。
壮大な歴史を感じさせる凱旋門、絵画のような街・モンマルトル、ハイブランドの聖地・シャンゼリゼ…。
― ここも、彼が訪れたのかな…。
誰もが心踊らせるこの街で、どこへ行っても、ある男の面影を探してしまう綾香がいた。
◆
「綾香ちゃん、パリへようこそ。乾杯!」
その夜、綾香は、コンコルド広場に面するパリ屈指の名門ホテル『オテル・ド・クリヨン』のレストラン『レクラン』にいた。
「そういえば、あの事故から、もう2年だな」
目の前にいる拓真が、感慨深そうにつぶやく。
彼は、3年前からパリに駐在している商社マンで、綾香が大学時代に所属していたゴルフサークルの先輩だ。
「私にとっては、“まだ”2年なんですけどね…」
うつむきながら答える綾香に、拓真が「そうだよね。そんなに簡単に崇のこと忘れられるわけないよね…」と優しく声をかける。