アイ・ニード・モア〜外資系オンナの欲望〜 Vol.8

「今夜は夫を無視しよう」結婚生活の理想と現実。イライラする妻に対して、温和な夫は…


綾乃が康介と結婚したのは、2年前だ。

外資系消費財メーカーのマーケティング部門に新卒から勤務する綾乃の年収は、当時すでに1,300万円。1人で生きていくのに十分な収入を得ていた綾乃は、もともとそこまで結婚願望が強いわけではなかった。

しかし、そんな綾乃が「結婚しなければ…」と考えを変えたのには、ある理由があったのだ。

それは、会社のみならず世間にもある「ワーキングマザー礼賛」の風潮。

社内でメディア取材を受けたり、いわゆる「ロールモデル」とされたりする女性のほとんどが、結婚・出産して子育てをしているワーキングマザーだった。

― 外資系企業では、成果を上げるだけでは物足りない。これからは家庭も仕事も充実していないと、誰からも評価されない!

そう思い詰めはじめた矢先に、当時付き合っていた康介からちょうどプロポーズされた。

― ワーキングマザーとして輝くなら、出産適齢期から逆算して、いま結婚しておくのはアリかも…。

康介にはとても言えないが、そんな打算もあって、綾乃は結婚を決めたのだった。



― 理想を叶えたくて結婚生活を送っているのに、何でこうもうまくいかないんだろう。私の努力が足りないのかしら…。もっともっと、頑張らないといけないのかなぁ。

モヤモヤとした気持ちが収まらない綾乃は、保育園のお迎え前の少しの時間を利用してショッピングフロアにあるブックストアに立ち寄る。

書籍は普段Amazonで購入することが多いが、モヤモヤした気分を変えるきっかけが欲しかったし、たまには紙の本を手にするのもいいかもしれないと思ったのだ。

店舗に入りはじめに目についたのは、「仕事・キャリア・自己啓発」のコーナー。

― 社会人になったばかりの頃は、こういう自己啓発系の本に勇気づけられていたっけ…

今から思えば肩に力が入りすぎていた若手の頃を思い出し、棚に並ぶ自己啓発本を前に、綾乃は1人苦笑する。

そんな時、1冊の本のタイトルが目に入ってきた。

『働く女性のための 仕事の教科書 ― 30代編』

― まぁ、何ともありがちなチープな題名だわ…

心の中でつぶやいたが、そのもうすぐ30歳の誕生日を迎えるからだろうか。「30代」というワードが無性に気になった綾乃は、思わずその本を手にしていたのだった。

本の目次には、“ワークとライフの両立を”、“10年後のキャリアを考えよう”、“女性こそ、次世代リーダーに”…、これまたありがちな言葉が散らばっている。

「まぁ、こんなものよね…」

そう思う反面、エネルギーに満ちていた若手の頃を懐かしく思い出せる気もした。

自己啓発本を卒業してかなりの月日が経っていたが、久しぶりにこういう本を読んでみれば、自分に喝を入れられるかもしれない。

それに、今日本を買って帰ることは、今の状況に適しているような気がしたのだ。

普段は、真奈を寝かしつけた後は、康介とふたりリビングでゆっくりと過ごすことが多い。

しかし今日に限っては、喧嘩したばかりの康介とリビングで一緒に時間を過ごすのはどうにも気まずくて避けたいと思っていた。

「本を買ったことで部屋に籠る言い訳もできるわ。今日は家事と育児を最低限した後は、部屋に籠って読書でもしようっと」

そう考えた綾乃は少し悩んだ後、手に取った本を購入することに決めたのだった。


今日は無事にお迎えも行くことができ、夕方からの家事育児もスムーズに回すことができた。

真奈を寝かしつけた後、綾乃はこう康介に言った。

「私、今日ちょっと本買ってきたら、部屋で読んでるね!」

後ろめたさを払拭するべく努めて明るくこう言うと、綾乃は本を購入した時の算段通......


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