柚葉と結婚したのは、3年前。
当時29歳だった彼女と、33歳だった僕。お互い結婚適齢期だったし、交際2年を経てからの結婚は早すぎもせず遅すぎもせず…といった感じだった。
現在も、大手外資系の化粧品会社に勤めている柚葉。そんな彼女は、出会ったときから僕の憧れでもあった。
綺麗な黒髪ロングヘアと切れ長の目が印象的で、どこか人を惹きつけてやまない存在だったのだ。
仕事もできて、テキパキしている。でもクールな見た目とは裏腹に情け深く、後輩からの信頼も厚い。
僕のような小中高一貫の男子校出身で、競争社会とは無縁の世界で生きてきた“のんびり屋”とは、まるで正反対。いつも彼女に引っ張ってもらっていた。
唯一、僕が男らしさを発揮したのは、結婚を申し込んだときくらいだ。
「柚葉、結婚しよう」
月並みな言葉だったかもしれないけれど、僕なりに精一杯頑張ったプロポーズ。そしてその言葉を受け入れてくれた柚葉と、晴れて結婚。
僕の実家・田園調布からほど近い世田谷区に2LDKの中古マンションを購入し、愛の巣もできた。
この3年間。日々細かなことで柚葉から言われてきたことはあったけれど、基本的に毎日楽しく、幸せに暮らしていたはずだった。
だからこそ、突然の「離婚したい」という言葉に心底驚いてしまったのだ。
「ねえ、離婚したいって…。理由は?」
そう聞くのが、やっとだった。
だが柚葉は、やはり強かった。動揺する僕に対し、理路整然と離婚理由を述べ始めたのだ。
「だって、俊平に家事能力がなさすぎるから。正確に言うと家事能力というより、家事に非協力的すぎる」
そう言う柚葉の勢いに圧倒されつつも、何も言い返せない自分がいる。思い返してみると確かに、家事を任せっきりにしていたのかもしれない。
「俊平、最後に洗濯機を回したのはいつ?そもそも、結婚してから掃除機という物を触ったこと、ある?」
ぐうの音も出ないというのは、まさにこういうときのことを指すのだろう。
― あれ?そもそも、掃除機ってどこにあるんだ?
それすら知らない。
「それに、ご飯は食べたら食べっぱなし。洗い物さえしない。私のこと、なんだと思ってるの?あなたの家政婦さん?それとも、ママですか?」
言われてみれば、食事を終えるといつもそのままソファへ行ってダラダラしていた僕。
でも後でお皿を運ぼうと思っていたし、食器が溜まったら一気に洗おうかと考えていたときもある。
ただいつも、気がつけば柚葉が先にやってくれていたのだ。
何度も「お皿くらい運んで」と言われたものの、のんびりと放置していた僕を横目に、妻がテキパキと片付けていた。
「ごめん。でもあれは、後でやろうかなと思っていて…」
そんな僕の言葉なんて一切耳に入っていない様子で、柚葉は冷静に話し続ける。
「それから、夫婦間における家事分担の不平等。2人とも仕事がある。お互いイーブンのはずなのに、どうして毎日、私だけが家事をしているの?それっておかしいと思ったことはないの?」
それだけ言うと、彼女はスウッと大きく息を吸い込んだ。
「総合的に、夫力が無さすぎる」
— オットリョク…?
まるでハンマーで殴られたかのような衝撃だった。そんなこと、一度も考えたことがなかった。
柚葉はいつも率先して動いてくれていたし、何より僕がやるよりも妻がやったほうが綺麗になる。
そもそも、僕は汚くてもあまり気にしない性格だ。
だから柚葉は、喜んで家事をしているのかと思っていたのだ。
この記事へのコメント
柚葉、不倫して離婚を考えてるのに、離婚理由を夫が家事をしないからって事だけにするなら、ちょっとずるい気もするけど。
なんでチャームポイントの話を突然出す?
寒すぎるわ。