『銀座レカン』では、シェフが替わるとメニューも全て替わるのが慣わし。来年で創業40周年を迎えるが、そうしたわけで40年間出し続けている料理というのは、存在しないのだという。
そこで、現シェフである高良康之氏に作って頂いた“Traditionnel”は、2007年の就任当時から作り続けている、甘鯛を使ったひと皿。
6代目のシェフとして『銀座レカン』の厨房に入る直前は、系列の『ブラッスリーレカン』のシェフを務めていた高良氏。この店のゲストが求める料理やサービスのレベルを体感すべき、と3週間フランスの星付きレストランやホテルを巡ったという。
「ブラッスリーでは時に、食材のアクや料理の粗っぽさも味のうち。ですが『銀座レカン』という場所に、そうした料理はそぐわないのです。複数の要素を重ねてもなお、クリアで透明感があること。また、時代の流れもあり、軽さが求められがちですが、むやみに軽いのではなく料理に適した“重さ”を保ちながら食後感はあくまで軽快に……と、常に考えています」
そうした思いを込めて作り出した甘鯛は、身の柔らかさは損なわず、その身に寄り添う皮にはしっかりと火を入れ、美しく立ったウロコの食感が、身との見事なコントラストを成す。ソースとのバランスも秀逸。毎年、この味を楽しみにしている顧客が多いというのも頷ける。
一方、最近のレシピのひとつであるフォワグラは「フォワグラがあまり得意でない、という方にも召し上がれる冷菜を」という思いも込められている。
「新しいものを考え出すのは大変ですが、最近ようやく構想を練ってから完成に至るまでの時間が楽しくなってきましたね」
脂の乗った高良シェフの料理、今が食べ時、である。
改めて識るべき 老舗グランメゾンの真価
数十年と長い歴史を重ねている店には、必ずそれに値する理由があるものだ。 それを識ることはフレンチの神髄を識ることでもある。
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