「とはいっても、夏希にとって“颯太くん”を超える人って、なかなか現れないよね」
元カレとの過去に思いを馳せていたとき、アキさんの言葉で現実に引き戻された。
「私の目からみても、颯太くんと夏希は、お似合いだったし。それに彼みたいな完璧な人と一回付き合っちゃうと、ハードルが高くなるのかな」
アキさんが、そういうのも無理はない。身長180cmで、福士蒼汰にも似た精悍な顔つきにもかかわらず、それを鼻にかけないところ。周りをまとめ上げるリーダーシップも兼ね備えた彼は、当然のようにモテた。
それに、颯太くんは静岡の広大なお茶園の長男坊で、いずれ家業を継ぐ身。大学を卒業したあとは、修行のため大手商社に就職してエリート街道まっしぐらだった。
大学時代から私をよく知るアキさんが、さらに追い打ちをかけてくる。
「もっと言うと、夏希が今求めてるのは、都心勤務・転勤ナシのハイスペック男子。そんな条件がいい男は、争奪戦だよね」
「わかってるんですけど…。つい颯太くんと比べちゃうんですよね」
私だって頭では理解している。そんな条件の人はかなりの競争倍率だと。
26歳まで婚活市場では無双モードだった。だから、いつか理想通りの人と結婚できると信じていた。
母ゆずりの大きな目に、父に似た高い鼻。絶世の美女というわけではないが、一般的にみて悪くはないほうだと自分では思っている。
アプリをやれば常に500を超える“いいね”がつき、スケジュール帳はアポの予定でぎっしり埋まる。パーティーや食事会では、必ず連絡先を聞かれ、取捨選択が難しいくらいだ。
でも、未だ結婚に至っていない。
「夏希、スマホ鳴ってるよ」
アキさんの指摘でスマホを開くと、つい数時間前に再登録したばかりのマッチングアプリから、“いいね”やメッセージを知らせる通知が連続で届いていた。
「アプリ?ちょっと、見てもいい?」
覗き込んできたアキさんが、歓声を上げる。
「なんか、みんないい感じ!」
言われてみれば、どの男性も一見悪くない。
「たしかに、みんなよさそうにみえるけど。でも……」
屈託のない笑顔やすまし顔、動物や子どもと戯れる様子に旅先の風景…。スワイプしてもスワイプしても、次々と新しい男性たちの写真が出てくる。
それを見ているうちに、情けなくなってきた。
― こんなにたくさんの男性がいるのに、どうして私は結婚できないんだろう…。
23歳の頃、マッチングアプリに初めて登録したときは、通知がくるたびに期待が高まったものだ。
「票数は、みんなからの愛です」なんて言ったどこかのアイドルじゃないけど、“いいね”の数が増えると、承認欲求が満たされ、いい気になっていたこともあった。
だけど、今は違う。
「こんなにたくさんの男性が“いいね”してくれてるけど、実際に会ってみて楽しいなって思える人ってすごく少ないんです…」
「わかる~!写真と全然違う人がきたりとか、メッセージ上では盛り上がっても、実際に会ってみたら会話が噛み合わなかったりとか…」
アキさんの相づちに、思わずうんうんとうなずく。同じような経験はたくさん覚えがあり、思い出すと腹が立つような気持ちだ。
「でも……」とアキさんが続ける。
「私もアプリで知り合って去年結婚したし、諦めないで!婚活の足を止めちゃダメ」
彼女の言葉に、ハッとする。
「アプリをどんなに頑張っても、報われないかも…」というマイナス思考が頭をよぎっていたから。
「たしかに、そうですね。アキさんも、素敵なご主人と出会ったんですものね」
世の中のどこかに自分にピッタリの人はいて、今はただその人とマッチングしていない、それだけ。
であれば、答えはシンプル。理想の人に出会えるまで、試行を続ければいい。
23歳から始めた婚活で、失恋からのリスタートは年々つらくなっている。
飛ぶように過ぎた時間は取り戻せないけれど、27歳となったいま、それを無にするつもりは毛頭ない。
― 絶対に成功させてみせる。
スマホを手にし、私はさっそく気になった一人の男性にメッセージを送った。
▶他にも:「仕事が多忙で…」と本命女にLINEした男が、南青山で別の女としていたコト
▶Next:7月31日 土曜更新予定
怒涛の婚活アポを再開させた夏希の最初の一手。そこで現れた男とは
この記事へのコメント
って、なんだか悲しくなる時もありますよね。子供の頃は、大人になったら自然に好きな人が出来てその人と結婚して、子供は3人くらい出来たらいいなぁとか、簡単に....でもそれが普通に出来る事のように思っていたけれど。実際大人になったら、その頃にはなかった婚活・妊活 って言葉も出来たように、頑張って活動しないといけなくて...続きを見る、焦れば焦るほど空回り....。
そのうち颯太君出てきてその時わかるのかな?
今日は、お決まりの慶應でも良かったんじゃないの?