2021.06.25
ごきげんよう時代を過ぎても Vol.1お嬢様の結束
「ごきげんよう。凛々子、同窓会に何着ていく?和装なら一緒に着付け予約いれるよ。ヘアメイクも頼むよね」
翌朝、9時ぴったりにかかってきた電話。仕事かと飛び上がった凛々子は、相手が中高時代の友人・文香だとわかると脱力した。
「ごきげんよ~。土曜の朝っぱらから元気だねえ。同窓会、参加するか迷ってるんだけど…。さすがに7月の和装は嫌よ、面倒くさい」
卒業してから周囲に驚愕され、一般的とは言い難いとわかってから封印した「ごきげんよう」。それも今では、自然と子どもの頃に戻れる合言葉だ。
文香は社会人になってから年に数回会う程度になっていたが、青春時代のすべてを共有している仲だ。凛々子の低いテンションをまったくスルーしてたたみかける。
「えー。成人式のとき、250人全員大振袖でさ、華やかだったじゃない。せっかくだしキレイにしていこうよ」
「あのねえ。傍から見たらアラサーの大振袖250人なんて、ホラー以外の何物でもないわ!だいたいもう独身のほうが少ないんじゃないの?」
「あはは、知らないの凛々子!この前お姉ちゃんの代が15周年同窓会したら、半分以上まだ独身だったってよ。このご時世、贅沢三昧で育った清栄生の嫁き遅れ率半端ないのよ。
今どき、どこの物好きがランニングコスト高すぎのお嬢様を養ってくれるのよ。不良債権化してんだから」
凛々子は苦笑しながら、スマホをスピーカー通話にしてキッチンでコーヒーを入れる。高校時代のことを久しぶりに思い出していた。
◆
凛々子と文香が6年間通った学校は、日本屈指の名門女子校とされている。
小学校から持ち上がりが90名、中学受験で150名が入学し、6年間を“パラダイス”で過ごす。
希望者はそのままエスカレーター式に大学へ行くことも可能だが、エネルギッシュで知的好奇心が旺盛な子が多く、3分の2は凛々子のように外部の大学を受験する。
28歳になった今、凛々子はちょっと華やかな業界に身を置いて、東京の20代女子としてそこそこ刺激的な毎日を過ごしてはいる。
だがそれも、中高時代の狂乱の日々に比べれば可愛いものだと思う。
余りある親たちの威光とお金、たっぷりとした時間、若さと名門校のブランドさえあれば、もう大抵のことは笑いごとになる。
親戚のように仲良くなる友人の親たちは、冗談みたいな名家や世間に名をとどろかす成金、常にマスコミに追われる芸能人、医者や弁護士、一部上場企業の役員などバラエティーに富んでいる。
彼らは競うように愛娘の学友に便宜を図り、大抵のことはフリーパスになるのだった。
長期休暇でハワイに行けば誰かの別荘で集合になるし、バレエやピアノのめぼしいコンクールでは校内の誰かが必ず入賞していた。
茶道・華道・礼法は授業に組み込まれていたし、テーブルマナーは年に3回、名門ホテルや料亭であらゆるジャンルのフルコース研修。高2になるとスイスの貴族学校で、ひと夏のあいだ花嫁修業をする子も。
そんな浮世離れした空間は、それぞれが面白いことに集中しているせいか、意外にも女子特有の陰湿な関係とは無縁だった。
仲間の結束は固く、外部の人に「女子校っていじめとかありそう」と言われるたびに首をかしげたものだ。
しかし、凛々子たちは知らなかった。
ずっと続くと思っていたそんな日々は、塀の中の楽園で、実は遊園地と同じ。誰かがお膳立てしてくれた世界だったのだ。
そのことに初めて気づいたのは、大学生のとき。そして社会人で確信に変わった。
「凛々子にはすごく華やかな仕事があるもんね、同窓会なんてしょぼいイベント、必要ないか。いいなあ~」
文香があまりにも無邪気に言うから、凛々子も一瞬現実を忘れそうになる。
リモートワークが増えたせいで際限なく入るオンライン会議。会えないが故にこじれていく、クライアントとクリエイターのバトル仲裁。
そして18歳まではむしろ誇らしかった“女”という属性が、この広告代理店の最前線ではむしろ不利になるという現実。
仕事が嫌いなわけじゃない。でも専門性やスキルを磨くというよりも「プロ雑用係」と自虐するほどに、ひたすら誰かの調整に忙殺された。
「何言ってんのよ。同窓会なんかいったら『あの頃は良かった』なんて言っちゃいそうだもん。…やっぱり私は、参加しないわ」
凛々子は自嘲気味に笑うと、通話を終了させた。
◆
「中条さん、メールありがとうございます!さすがの一言でした。お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」
月曜日。3日ぶりに顔を合わせた営業部の先輩・中条のデスクに駆け寄ると、凛々子は膝に頭がくっつきそうなほど深々と頭を下げた。
マジかーとか半端ないとかあまり品性を感じられない…
今どきはお嬢様でも大人になったらこういう言葉遣いするのかな?
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