東京には、お嬢様だけのクローズド・パラダイスが存在する。
それはアッパー層の子女たちが通う”超名門女子校”だ。
「銀のスプーンをくわえて生まれてきた」彼女たちは、その狭い楽園で思いっきり青春を謳歌する。
しかし誰もが永遠に、そのパラダイスにはいられない。18歳の春、外の世界に放たれた彼女たちは突如気づくのだ。
―「お嬢様学校卒のブランド」って、令和の東京じゃ何の役にも立たない…!
ハードモードデビュー10年目。秘密の楽園から放たれた彼女たちの、奮闘ぶりをお届けしよう。
大手広告代理店勤務・凛々子の話【前編】
「『10周年記念同窓会のご案内』…って私、高校卒業して10年!?嘘でしょ?」
20時前に仕事が終わったのは、1ヶ月ぶり。疲れ切った体で、麻布十番のパティオ裏にあるマンションへと帰宅した凛々子は、驚愕していた。
手にしているのは、気がつけば溜まっていた郵便物のひとつ。
薄ピンク色の封筒に刻印されている懐かしいマークは、凛々子が6年間通った中高一貫女子校の、あまりにも有名な校章だった。
「同窓会で会費3万円、盛装で赤坂のホテル…。相変わらずねえ、何時代よ。うわっ、先生も来るんだ!“シゲじいや”まだ生きてて良かったね~」
一人暮らし6年目。独り言の音量も遠慮がない。エストネーションで買った新しいジャケットを脱いでダイニングの椅子にひっかけると、凛々子はソファに倒れこんだ。
超名門お嬢様中高一貫校を経て、大学は慶應義塾の法学部法律学科卒。コネ持ちか究極のお調子者、そして少数だが本物の天才がそろう大手広告代理店の営業職。
担当クライアントはCMをバンバン打つけれど、倒れるほど口うるさい某日系大手メーカー。
凛々子があのお嬢様学校を卒業して以来、この肩書きを背負って活躍するために捨てたものは、他人からは計り知れないだろう。
「そういえばお昼も食べてないじゃん。Uber Eatsで、なにかあったかいモノでも食べよう…」
身を投げ出したまま指一本で食料を調達し、テーブルを見る。するとそこには、さっき放った案内状があった。紙には、校章とともに長年刷り込まれてきた校訓が載っている。
“愛をもって、清廉に、ひたむきに”
「マジかー。この10年で何ひとつ達成できてないって、先生…」
凛々子はその晩、メイクを落とすのも着替えるのも忘れて、ソファで眠りこけた。
この記事へのコメント
に笑った!
マジかーとか半端ないとかあまり品性を感じられない…
今どきはお嬢様でも大人になったらこういう言葉遣いするのかな?