SPECIAL TALK Vol.79

~枠にとらわれず、やりたいことをやる。アートと科学の融合で夢想した未来を現実に~

自分が本当にやりたいことを、求めれば枠から抜け出せる

金丸:ところで、スプツニ子!さんは、自分自身でまず計画を立て、目的に向かって戦略的に進むタイプですか、それともまずは動いてみて、その結果から次のアクションを起こすタイプですか?

スプツニ子!:私自身はこれまでかなり計画的に動いてきたと思っています。周りにはそう見えないかもしれませんが(笑)。でも先に何をやりたいのかを決めて、そのあとプロセスや手段を考えますね。ビジネスの世界も同じだと思いますが、先に「自分は本質的に何をやりたいか」から考えると、枠から抜け出せる気がするんです。人って「アーティストの仕事とはこういうものだ」とか「科学者という職業は、こういうことをやるべきだ」という枠にとらわれてしまいがちじゃないですか。

金丸:それはよく分かります。失われた30年とよく言われますが、日本の多くの企業が前例を踏襲するばかりで、自分たちの本業やサービスの価値を再定義できず、この激しい時代の変化に対応できずに力を失っていったように思います。先程ご両親が来日されたのは、1981年だと伺いました。この年は16ビットパソコンのIBM PCが発売された、私にとっては忘れられない年です。

スプツニ子!:コンピュータの転換点のひとつですね。

金丸:それまでは日本のメーカーも、世界でそれなりに戦っていました。しかし、IBM PCが誕生し、潮目が変わった。それまで主流だった大型コンピュータから、性能は劣るけれど小型で安価なパソコンへ、雪崩を打つようにユーザーが流れっていったんです。しかし、日本メーカーは「あんなものは主流にならない」と高をくくり、大型コンピュータにこだわり続けた。枠にとらわれすぎた結果、競争力を失いました。

スプツニ子!:日本企業にありそうな話ですよね。高い技術力はあるのに、マーケティングが苦手で、アウトプットを間違えてしまう。

金丸:それは経営者の責任です。ほかの企業と違う切り口で戦うのではなく、自分たちと似たような企業の動きをみて、同じことをやろうとするから、イノベーションが起こせない。非常に残念なことです。

アートと科学を融合させ、問いかけ続けたい

金丸:一見突飛に思える作品をつくりながらも、その背景にはしっかりした問題意識があって、自分の感情に素直な部分もあれば計算して行動もしている。スプツニ子!さんはアーティストと科学者という立場を使い分けているというより、融合しているような印象を受けます。

スプツニ子!:本質的にはアーティストだと思っていますが、バックグラウンドや思考回路はものすごく理系です(笑)。ジェンダー関係でいろいろと発言を求められる機会が多いのですが、私は他の文系のスピーカーと比較して、データを引っ張ってきて現状のバイアスを説明するのが得意だなと感じることがよくありますし。

金丸:理系として訓練を受けたおかげですね。先程の低用量ピルとバイアグラの話も「かたや30年、かたや半年」というデータを突きつけられると、説得力が増します。

スプツニ子!:そうなんですよ。具体的なデータがないまま話をすると、どうしても主観的な意見に思われてしまって、正しい主張なのに理解してもらえなかったり。でも客観的なデータを見せれば、日本のジェンダーギャップを誰もが認識できると思います。

金丸:ところで、理系的思考とアート的思考のバランスを、どのように取っているのですか? アートは右脳的なものですよね。左脳的なロジカルシンキングだけで作品をつくると、アナロジーっぽい要素がなくなり、面白みが薄れてしまいそうに思えますが。

スプツニ子!:アートには答えが出ないような問いを投げかける、という側面もあるじゃないですか。たとえば「命ってこういうものじゃないか」とか、「人類とは何か」「生きるとはどういうことか」みたいに。一方、科学の世界でも同じような問いが盛んに議論されています。AIがどんどん発達して人間を超えた知能レベルになったらどうなるのだろうとか、ゲノム編集による能力拡張は是か非かとか。

金丸:たしかに、明確な答えがあるわけじゃありません。

スプツニ子!:私は理系が大好きで、プログラミングも得意ですが、「テクノロジーが発展すると、未来はこういう世界にもなり得るんじゃないか」と妄想してきたことを、アーティストとして作品に昇華させている、という感覚です。

金丸:ファクトベースで理系的に現実を把握し、それを基に右脳で未来を考えてメッセージを込める、ということなんですね。

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