SPECIAL TALK Vol.78

~やりたいことがやれる人を増やす。自動収穫ロボットで農業を変え、世界を変えたい~

雑草抜きから野菜収穫へ。人とのつながりが道を決めた

金丸:今のところ、まだ農業との接点がありません(笑)。どうやって農業分野での起業にたどり着いたのですか?

菱木:実は最初から農業と決めていたわけではなく、まずAIを使って何かできることはないかを探していたんです。ITジャーナリストの湯川鶴章さんが主宰している勉強会に事務局として携わり、そこで専門家の皆さんの講義を聞くうちに、次に時代の潮流を変えるのは間違いなくAIだ、と確信しました。

金丸:嗅覚が鋭いですね。

菱木:その流れで、アメリカの「ブルー・リバー・テクノロジーズ」という企業を知りました。この企業が開発したトラクターは機械学習エンジンを搭載していて、トラクターの後ろについているカメラで、生育途中のレタスの状況を認識し、密集している所があればレタスを間引くという作業をしていました。その技術を見て、「これが普及したら、きっと大勢のレタス農家さんが助かる」と感じました。鎌倉野菜を生産している友人にその話をしたところ、「いや、菱木さん。レタスの間引きじゃなくて、うちの雑草をなんとかしてくれない?」と言われて。

金丸:レタスより雑草(笑)。確かに農業は雑草との闘いですからね。

菱木:当時の僕は、雑草を取るのがどれだけ大変なのかよく分からなかったので、実際に友人の畑に行って雑草を取ってみました。それがめちゃくちゃ大変で。AIなら野菜と雑草を見分けることもできるだろうと、本格的にAIの勉強を始めました。

金丸:なんだか要所要所で、お友達に助けてもらっていますね。それも菱木さんの「何かやりたい」とか「みんなで一丸となって取り組みたい」という気持ちがあってこそでしょう。それで、雑草を相手にするつもりだったのが、収穫の方向へ行ったのはなぜですか?

菱木:これもたまたまです。アスパラガスの農家の方と出会い、雑草を取り除くロボットを造りたいという話をしたら、「雑草を抜けるなら、アスパラガスの収穫もできるんじゃないですか?」と。

金丸:いろいろな人と会話するなかで、レタスから雑草、雑草からアスパラガスへとつながっていったんですね。

菱木:アスパラガスの収穫もどうするかなんて全然知らなかったので、実際に畑に足を運びました。すると、これもまた大変で。しかも、雑草を取る作業はだいたい数ヶ月に一度くらいですが、アスパラガスはシーズン中、ほとんど毎日収穫しないといけない。

金丸:アスパラガスのシーズンって、年間でどのくらいの期間なのでしょうか?

菱木:地域によって差はありますが、最もシーズンが長い佐賀県の場合、8ヶ月ほどです。

金丸:8ヶ月ですか。その間、毎日しゃがんで手作業で収穫するって、重労働ですね。ところで、農業の現場に入ってみていかがですか? 壁にぶつかることもあるだろうし、理不尽な規制に頭を悩ますことも多いのではないかと。

菱木:おっしゃるとおりです。地域によって規格が定められていますが、例えばアスパラガスは出荷する際に長さは27センチと決まっていれば、30センチの立派なものも、27センチに切らなければなりません。それを農協の選果場に持っていくと、さらに25センチに切りそろえられてしまうんです。

金丸:それじゃあ、2センチ分、まったく無駄になるじゃないですか。

菱木:しかも切った部分は、ゴミとして農家さんが持って帰らないといけません。アスパラガスの単価は、1キロ当たり1,000円くらいなので、カットしたものが1日で7キロ出れば、毎日7,000円を捨てているのと同じです。

金丸:人間だってみんな身長が違うし、バラバラなのが当たり前なのに。農作物は1970年代の初めにこうした規格が決められました。出荷の簡素化や流通の合理化を図るためですが、その結果、今では規格外のほとんどの野菜が店頭に並ぶことなく廃棄処分され、大きな問題になっています。それでもこのようなルールが本当に妥当かどうかを問題提起する人は、ほとんどいません。

菱木:ほぼ半世紀前に決められたルールが、そのまま残っているんですよね。アスパラガスが何センチだろうと味は変わらないし、20センチのものが欲しい消費者だっていると思います。昔は無理だったかもしれないけど、それこそ機械化、自動化で合理化を図れば、無理に規格をそろえなくても、欲しい人のところに野菜を届けることは可能なはずです。

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