Q1:マメなコミュニケーションを心掛けていたのに、何がダメだった?
ー美樹さん。可愛いな、年齢は33歳か。
白い肌に、肩にかかる長さのダークブラウンの髪。清楚系というのだろうか。
メインのプロフィール写真は、カフェでマグカップを手に持ちながら微笑む写真。2枚目の写真はどこかのドッグカフェだろうか。犬は好きだが、それよりもまず彼女の明るい笑顔ばかりが気になった。
そしてプロフィール文にも、さっと目を通す。
東京在住でひとり暮らし。休みは自分と同じ、土日らしい。それ以外にも、どんな仕事をしているかとか、趣味が温泉やカフェ巡りであること、そして行きつけのエリアや店など当たり障りのない情報が書かれていた。
ーうん、彼女いいな。“いいね!”をしてみよう。
何度もアプリを開いては、美樹のプロフィール写真を拡大して眺める。好みのタイプなのだ。
だがその日、美樹からの“いいね!”は返ってこなかった。
ーマッチングってもっと簡単にするものじゃないのか。
こうして、35歳の誕生日は静かに終わっていった。
美樹からの“いいね!”によって、晴れてマッチングが成立したのは翌日の夜だった。
ー大輔:美樹さん、初めまして。大輔といいます。よろしくお願いします。
ー美樹:メッセージありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。
アプリ内のメッセージ機能を使って、そこからしばらくやり取りが続いた。美樹との会話はテンポが良いというか、ノリが合うというか、とにかく心地が良い。
ー大輔:美樹さんは普段何時くらいに仕事が終わるんですか?
ー美樹:19時には終わります。なので、夜の時間の方がやり取りしやすいです。
ー大輔:僕もそうです。朝は弱くて(笑)。昼間は仕事でスマホを見る時間がなかなかないんです。それではまた明日の夜に連絡します、おやすみなさい。
正直なところ、寂しさを埋めるために再開したマッチングアプリだった。簡単に誰かとつながることができる、気軽な交流の場くらいにしか捉えていなかった。
そのはずが、気が付くと1週間のうち1日も欠かすことなく美樹とのやり取りが続いている。連絡不精な自分が、だ。
ー大輔:そういえば美樹さんてどんな仕事をされてるんですか?
ー美樹:化粧品会社の広報の仕事です。
ー大輔:職場はどのあたりですか?
ー美樹:清澄白河です。大輔さんは有楽町の近くなんですよね?
ー大輔:はい、よく銀座で飲んでます。美樹さんはどのあたりで食事をすることが多いですか?洋食派?和食派?エスニック料理とか好きですか?
気づけば、自分から積極的に質問をしていた。彼女のことを、もっと深く知りたい。好意を抱き始めている、と言ってもいいかもしれない。
ー美樹:職場の近くに気に入っているカフェがあって、そこによく行きます。辛いのは苦手だけど、タイ料理は好きです。
ー大輔:僕もタイ料理好きです。ヤムウンセンとか。日本橋にいいお店があるのでご一緒できたら嬉しいです。
ー美樹:ぜひ、楽しみにしてます。
美樹の返信はどれも丁寧で、少なからず自分のことを悪く思ってはいないだろうと感じさせる。
だが、それからしばらくすると美樹のメッセージに変化が表れ始めた。
ー大輔:動物は犬と猫、どちら派ですか?
ー美樹:犬です。
ー大輔:僕もどちらかと言ったら犬派です。飼ったことないですが。美樹さんは犬、飼ったことある?
プライベートに踏み込み過ぎたわけでもない。適度な距離感を保ちながらも、答えやすい質問をしたと思う。そもそも女の人は連絡の回数が多いほうが嬉しいと聞くし、元カノだって自分からの連絡の少なさに不満を持っていた。
だからこそマメな連絡を心掛けていたのに。美樹の態度が、どこかそっけないものに変わっていったのはどうしてだろう。
この記事へのコメント
答えはプレミア会員じゃないと読めないなら、別に読まなくていいや。
最近だと煮沸とか、羽田空港のお話ぐらいじゃないと、払いたくならないけど。