『真由子:最近忙しい?近々、また飲もうよ!』
『愛菜:ごめん、最近仕事が忙しくてバタバタしてるの。また連絡する!』
愛菜の仕事は広告代理店の受付。連絡が取れないほど受付の仕事が忙しいって、果たしてどんな状態なのだろう。
そんなLINEを真に受けるほど、私もバカじゃない。すぐに嫌な予感が働いた。
―でも、そんなハズない…。
愛菜程度の女に、あんな素敵な男性がアプローチするわけがない。
私も愛菜も似た者同士だけれど、どっちかといえば、私の方が可愛い。私の方がモテてきたし、恋愛経験も多い。生活レベルから見るに、私の方が給料も高いはず。
涼真は、そんな私が奇跡的にお近づきになれた男性なのだ。私以下のレベルの愛菜に恋するなんてこと、あるはずがない。
自尊心と平常心をどうにか保つため、私はそんな思考をぐるぐる巡らせた。
そして、2人との連絡が途絶えてから3週間が経った、クリスマスイブの夜。
私は同僚と会社帰りに食事をし、丸の内のイルミネーションを2人で見ながら帰路についていた。
「25歳のクリスマスイブに、女2人か~」
「別にいいじゃん!」
「まあね、悪くはない」
他愛もない会話をしながらも、脳内には愛菜と涼真の存在がべったりとへばりついている。
不快な疑念を拭い去ることができないまま、暖色系に染め上げられた東京駅の駅舎を、ぼんやりと眺めながら歩いていた。その時だった。
「…」
本当に驚いたときには声も出ないんだと、私はこの時はじめて知った。
私のすぐ前を歩いていたのは、愛菜と涼真だったのだ。
仲睦まじそうに、2人とも私には見せたことのない表情で見つめ合いながら、歩いている。
その距離感と空気感は、男女のそれ。一目見ただけですぐにわかった。
すぐ近くから私に見られているなんて、これっぽちも気づいていない。2人だけの世界に没入している。
シャンパンゴールドの光の中で、愛菜と涼真は手をつなぎ、ゆっくりと歩く。ドラマのワンシーンのようなその姿のすぐ後ろを、私は女友達と歩いている。
一歩、また一歩と歩みを進めるごとに、私の中で何かが壊れていく。
そして、ぶちっと鈍い音で、何かが切れた音がした。
―…許せない。絶対に許せない。
涼真が自分のものにならないなら、誰のものにもならないでほしかった。誰かのものになるなら、せめて圧倒的な美女とか才女とか、自分じゃ到底かなわない女に取られたかった。諦めがつくから。
―…なんで、愛菜なわけ?
同僚に気づかれないよう平常心を装い、いつもの笑顔を貼り付け、般若の形相を必死で隠す。いつもなら、奥深いところで眠っているこの顔が、体のすぐ表面にまで近づいてきている。表に出たがっている。
燃えたぎる炎を悟られないよう、深呼吸をして、怒りを吐き出す。そして、思い立ったのだ。
―そうだ。あの人だ。
私はすぐさまスマホを取り出し、はやる気持ちを抑えながら、震える手でメッセージを打ち込んだ。
すぐにその人物から返信があったことで、私の精神はなんとか平常心に少し近づく…。
―ねえ、愛菜。そんなことしておいて、許されるとでも思ってるの?おめでたい女ね。
何も知らないで、幸せそうに歩くその後ろ姿に、私は心の中で語りかけた。
私、決めたから。
絶対に許さないからね。
▶他にも:女の貯金額は、5,000万円。全てをつぎ込んで彼氏とクリスマスに逃亡しようとしたら、まさかの…
▶Next:1月3日 日曜更新予定
真由子が考えた、愛菜への復讐方法とは?
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この記事へのコメント
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