健介のスマホを手に、さっそくLINEを開く。どの女が“奈々”なのかは、すぐに分かった。
『今日、ちゃんと別れてくるから』
そんな“奈々”へのメッセージが、トーク一覧のいちばん上に表示されていたのだ。
丸いアイコンの中でマグカップを両手に包み、伏し目がちに微笑む女。その女の連絡先を、自分のLINEに手早く転送する。
そのとき、彼が会計を済ませて戻ってくるのが見えた。視線は瑠璃子の手元をとらえている。
「ちょっと、何してんの?」
瞬間、健介の顔はたちまち怒りで真っ赤に染まった。そして瑠璃子の腕が千切れるのではないかと思うほどの力で、スマホを奪い取っていく。
そんな彼の顔をキッと睨み付けると、ハンドバッグを握りしめてカフェを飛び出した。
―絶対に追いつかれたくない。…それに、このまま泣き寝入りしたくないの。
そんな思いで、必死に逃げる。
その姿を追いかけてきた健介は、瑠璃子の背中に向かって、ほとんど叫ぶようにこう言った。
「連絡先知ってどうするつもりだよ!」
そんな彼の情けない遠吠えを聞きながら、健介の姿が見えなくなるまで走った。
そして横断歩道の手前で立ち止まると、“奈々”の連絡先にある動画を送りつける。実は途中から、健介の言葉を拾うためにスマホで録音していたのだ。
「ちょうどいいだけなんだ」
「恋愛なら間違いなく瑠璃子」
そんな言葉を聞いたら、幼なじみの女はどう思うのだろうか。
そして、追加でこんなメッセージも送った。
「あなたくらいの従順な子がちょうどいいんですって。見下されてるのね」
あれから健介がどうなったのか、瑠璃子は知らない。
ただ、あの日からしばらくして2回ほど、彼から連絡があった。
1通目は「瑠璃子の好きそうなタイ料理屋見つけた」という、先日の修羅場なんてなかったかのようなメッセージ。
そして2通目は、既読無視したメッセージに追撃する形で送られてきた「どうしてる?」というLINE。
もちろん、どちらにも返事をしていない。
ただ、こういうメッセージが来るということは、どうせ彼らはうまくいかなかったのだろう。
「…今さら私のところに戻ってきたって、遅いのよ」
真っ暗な寝室で、そう小さくつぶやく。
もちろん今回の事件の顛末は、食事会仲間の同僚たちにも共有済みだ。
これから健介が“奈々”と別れて再び恋愛市場に戻ってきたとしても、苦戦するように噂はしっかり流してある。
―これからもまだまだ、苦しめばいいわ。
瑠璃子は暗闇の中で、妖しく微笑んだ。
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この記事へのコメント
確かに彼女かなり気が強そうだし、男の気持ちも分からなくはないけど、それならちゃんと別れてから幼馴染と付き合えばよかったのに。
奈々は彼女いるって分かってて
略奪婚しようとしたのか
瑠璃子は浮気相手ってことになってたか
どちらにせよこんな男と結婚しようと思う
奈々もちょっと😨
動画送りたくなる気持ちが分かる
彼氏のクソな部分が分かって良かったと思う
これだけの裏切りしといて平気でLINEしてくる
神経どうかしてるし
行動すればするほど瑠璃子は食事会メンバーに共有してると思うけど😂