「私も副業することにしたの」
数ヶ月前、伊織が報告してきた時には一瞬驚いたが、彼女ためになるなら応援したいと心から思った。
それは新太自身、副業をすることで自分のキャリアに良い影響を与えていると感じていたからだ。
だから仕事に集中したいという理由で伊織の外泊が増えたことにも、目をつぶっていた。
これまでは「がんばれよ」と、物分かりの良い夫を装って送り出していたのだが、最近はさすがに度が過ぎていると思う。
―伊織の仕事が落ち着けば、きっと元に戻ることができるはず。
…しかし、そんな風に自分に言い聞かせることにも、限界を感じ始めていた。
今日もここにいない
―伊織って、副業でどのくらい稼いでるんだろう。
新太は、ふと思った。
家庭生活をおろそかにして、ホテル暮らしをしてまで副業にのめり込んでいるのに、大した金額も得ていないならコスパが悪すぎる。
彼女のお財布事情をつぶさに把握しているわけではないが、さすがに自分の方が収入は多いだろう。いくらキャリアアップとはいっても、体力も時間も無駄だと思うのだ。
そんなことを考えていると、伊織への怒りがこみ上げてくる。新太は再びLINEのアプリを立ち上げ、伊織への返信を打ち始めた。
『了解。今日は、伊織の好物のカレー作ったんだけどなあ』
嫌味を送っていることに、彼女は気づいているのだろうか。
―はあ。伊織が帰ってこないなら、もう夕飯にしようかな。
新太は、伊織が帰って来たらすぐに温められるようガスコンロの上に置いておいた鍋から、カレーを皿によそう。
明日の夕食になるから良いだろうが、せっかく作ったのになんだか虚しい気分だ。
以前は料理も掃除も、伊織が担当していた。新太の方が自宅で過ごす時間も短かったし、それが当たり前だと思っていたのだ。
それなのに今は、その立場も逆転した。伊織が帰ってこないのだから、新太がやらなければどうにもならない。
新太は洗濯機から溢れそうになっている洗濯物を、ジッと見つめた。
我が家は、自分がそれなりの収入を得ている。別に彼女があくせく仕事をする必要はない。
ましてや副業なんて、家庭生活をおろそかにしてまでやる理由があるのだろうか。
新太はもう一度大きなため息をつくと、1人寂しくカレーを食べ始めたのだった。
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この記事へのコメント
専門学校卒とかならそりゃすごいけど、そこそこの大卒だとしなら二馬力でアラサーで1500万は普通もいいとこで夫が自慢するほどの額ではない。