「そういえば…」
ふと気になった新は、今晩伊織はどこに泊まっているのだろうかと、共通のアカウントでホテル予約サイトにログインしてみたのだ。
「ここ!?それなら帰ってくればいいのに…」
伊織はいつも、夫婦の共通アカウントでホテルの予約を取る。今日宿泊するホテルは、自宅から歩いて15分ほどのビジネスホテルだった。
ホテルに泊まること自体には反対ではない。新太だって1人になりたい時には泊まることもある。問題は、その頻度だ。
最初は1ヶ月に1回程度だったものが、今ではほぼ毎週になっている。
それに今日のように、自宅からさほど遠くないホテルに泊まる理由が分からない。
新太は妻の考えていることがまったく分からず、頭を抱えるのだった。
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こんなはずじゃなかったのに…
一条新太は、公認会計士として働く29歳。妻の伊織は、小さなWeb制作会社でデザイナーとして働いている。
住まいは、目黒にある家賃20万・1LDKの低層マンションだ。
新太は本業のほかに、友人の立ち上げたスタートアップの外部顧問などをしている。そのおかげもあり、世帯年収は1,500万を超えているのだ。これは他の20代の夫婦と比べても、高い方であると思う。
さらに最近は、妻の伊織も副業を始めた。友人の会社のwebページ制作などを手伝っているらしいが、具体的な収入は知らない。
生活に必要な費用は基本的に新太が出していて、余暇の時なんかは2人で折半。上を見たらキリがない東京だが、自分たちの生活は悪くないはずだ。
それに新太と伊織は、結婚したとはいえ、お互い1人の時間や自由を大事にしたいタイプだった。
1人になりたい時には、どちらかがホテルに泊まったりしていて、夫婦生活と1人暮らしの良いとこどりの生活を送っている。
子どもが産まれたらそうもいかないだろうが、当面はこの自由な関係を続けたいし、伊織も同じ気持ちだろう。
そんな自由な夫婦関係もあって、平日の夜や休日は副業に充てる時間があるのだ。
新太が副業を始めたのは、友人に誘われたのがキッカケだったから、自ら進んでやろうと思っていたわけではない。公認会計士は人手不足ということもあり、アドバイザーとして声がかかったのだ。
「体調第一でやってよね。健康を害したら、元も子もないんだから」
副業を始める前、伊織に相談した時は「無茶な働き方はやめてほしい」と忠告しながらも、反対はしなかった。それに「私もサポートをがんばる」と言ってくれたものだ。
それなのに最近では、彼女自身が無茶な働き方をしているし、家にすら帰ってこなくなってしまった。
この記事へのコメント
専門学校卒とかならそりゃすごいけど、そこそこの大卒だとしなら二馬力でアラサーで1500万は普通もいいとこで夫が自慢するほどの額ではない。