誰にだって、人生の中で選択を迫られる瞬間があるだろう。そんなとき、何を軸にして進むべき道を選ぶ?
登場するのは、一見輝かしい人生を送る28歳の女たち。だけどどんなに完璧な女性だって、苦悩を抱えている。
そして彼女たちには、迷ったときの道しるべとする「人生の羅針盤(コンパス)」があったー。
心に闇を抱えた女たちは、どんなコンパスを頼りに、逞しくしたたかに生き延びるのか。
今週は、外資系金融機関で働く28歳・長谷川 愛莉のストーリー。「いつも完璧で美しい」と言われる彼女だが…。
「愛莉さんって、いつも綺麗で仕事もできて、本当に憧れです」
目を輝かせてそう言う後輩に、愛莉はニコリと微笑んだ。
そして、お決まりのセリフを返す。
「ありがとう。でもそんなことないよ。ただ、頑張ってるだけ」
木曜日のランチタイム。今日は二個下の後輩に誘われて、会社の近くの店にやってきている。
オーダーしたパスタが運ばれてくるのを待ちながら、愛莉は考えた。
ー憧れです、かあ。
昔から、後輩の女子たちは揃って愛莉にそんな言葉をかけてくる。だけどそのたびに、こう思うのだ。
ーいつも身綺麗にしているのも、仕事で成果を出しているのも、人一倍の努力をしてるから。
愛莉が勤める外資系金融機関は、噂どおりの激務だ。実際に、終電の時間を超えて仕事をすることもしょっちゅうだった。
平日は仕事で遅くなることがほとんどだが、稀に早く終わった日や休日は、美容エステでのフェイシャル・ボディケア、パーソナルトレーナーとの週1回のトレーニングも欠かさない。
美容代は月20万円かけているし、ワインや語学の勉強にも安くないスクール代を払っている。仕事関係の付き合いや友人との華やかなパーティーに顔を出すこともあった。
今の自分を保ちつつレベルアップするために、時間もお金も惜しまず投資しており、スケジュール帳はほぼ毎日何かしらの用事で埋まっているのだ。
ランチを終えた愛莉がデスクに戻ると、スマホに2件同時にメッセージが入った。
『愛莉、明日の夜、会わない?』
『明日の夜、私の写真の個展を開くことになったから、よかったらきてね!』
1件目は、約1年交際中の同い年の彼氏・京介からのメッセージ。
2件目は、フォトグラファーをする、同級生の女友達からのメッセージ。
貴重な金曜日の夜、同じ時間帯。だけど、身体はひとつ。
ーどちらかにしか行けないな…。
愛莉は一瞬手を止め首をかしげると、すぐに返信を打ち始めた。
この記事へのコメント
彼氏と一緒に個展に行く
個展に行ってから彼と食事
という選択はないの?
しかし個展は前から日程分かってないのかな??
「美しい」と言っても、美貌だけじゃなくて、人脈とか恋人とか内面の話も入ってるし。
何より、人任せでなく自力で稼ぐっていうのが、他シリーズの美貌にこだわる女性とは格が違うと思う。
ただ、これだけストイックだと、家庭においては家族にストレスを与えがちだから、そこは考えた方がいいとは思うな。
分かるんだけどさ、何か釈然としない。