2020.06.21
東京バディ Vol.1僕と片桐は10年前の大学時代、就職活動をしている春に出会った。
とある商社の、第二次ぐらいの採用試験がグループディスカッションだった。何人かのライバル就活生たちに交じって、僕と片桐がいた。
気負いすぎてカチコチになっている連中とは違い、片桐はやたらとリラックスしていた。なんなら頬杖をつき、ライバルたちの討論を冷めた目で見ていたほどだ。
なんて失礼なヤツだと思った。だが、同時におもしろいヤツだとも思った。
かく言う僕も実のところ、就活を通して出会う学生たちにはウンザリしていたのだ。
偉そうに聞こえるだろうが「こいつらとは見ている景色が違う」と感じてしまった。
片桐もそんな僕を見て、何か通じるところがあると思ったのだろう。帰りのエレベーターから最寄り駅まで向かう途中、声をかけてきて、僕たちは連絡先を交換することになった。
片桐はいまだに「先に声をかけたのは小暮だろ?」と言うが、彼の記憶力は信用ならないから、無視している。
その商社に関しては、二人とも不採用を告げられた。当然だ。
大手企業を見下した僕たちは、ただの天狗。あるいは井の中の蛙。いわゆる意識高い系のクソみたいな大学生だったのだと、ほどなくして気づかされる。
しかし問題は、その商社が超大手だったということ。
当時、まだ出会ったばかりの僕と片桐は、電話やファミレスで深夜まで話し込み、二人同時に反省し、二人一緒に心を入れ替え、就職活動に挑んだ。
そして晴れて、僕は他の商社から内定をもらった。片桐も、僕とは別の会社だがやはり大手商社に決まった。
僕と片桐のダメさを見抜いていた大手商社に肩を並べて、その二社はライバル関係にある。
だから僕たちの関係は、就活の時期だけで終わるのかと思った。
が、なんだかんだ、こうして10年経った今も、麻布十番で酒を酌み交わしているのだ。
どこへ行ってもエリート商社マン扱いされ、そして「とにかくその期待に応えなければ!」と思うことが多い中、彼と一緒にいるときだけは、素のままの自分でいられた。
◆
乾杯してから1時間。
テレワークに関する是々非々の討論を終えたあと、片桐が唐突に話題を変えてきた。
「そういやさ、小暮さ、最近は舞と連絡とってる?」
「舞?」
「うん、舞」
4月の頭ぐらいに「最近どう?」と連絡したことを思い返し、僕はそれを伝えた。すると片桐は「それで?」と身を乗り出してくる。
「ステイホームが終わって落ち着いたら会おうね、って」
僕が答えると、再び彼は、「それで?」と畳み掛けるように尋ねた。
「だからそのうち会おうかなって思ってるけど」
「それだけ?」
「何だよ、さっきから」
僕は少々いらついた。
「それで?それで?それだけ?って何だよ。何が聞きたいんだよ」
「やっぱり舞は、小暮には何も言ってなかったか…」
深刻そうに溜息をついた片桐を見て、嫌な予感がした。
「アイツ、結婚するんだって」
ほら、やっぱりそうだ。僕の嫌な予感はだいたい的中する。
しかしとぼけたフリをして、もう一度聞き返す。
「…は?…今、なんて言った…?」
「舞、結婚するんだよ」
「…そっか。…おめでとう…だな」
僕はウソをついた。まったくもって、めでたくない。
「いや、全然、めでたくないだろ」
僕の心を見透かすように、片桐は言った。
「小暮は、舞が結婚しても、いいわけ?」
片桐は覗き込むようにしてこちらを見てくる。
―よくない!
心の中で僕は叫んだ。
―舞には結婚してほしくない!
もう一度、そう叫んだ。心の中なら、何度でも叫べそうだった。
たしかに価値観というか人生観というか、それが似てると長い付き合いになりやすいよね。多分これからも付き合い続くよ。
お互いに良い友達を持ったんじゃないかな?
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