東京バディ Vol.1

東京バディ:互いを「親友」と呼び合う2人の商社マン。だが好きになったのは同じ女だった…

僕と片桐は10年前の大学時代、就職活動をしている春に出会った。

とある商社の、第二次ぐらいの採用試験がグループディスカッションだった。何人かのライバル就活生たちに交じって、僕と片桐がいた。

気負いすぎてカチコチになっている連中とは違い、片桐はやたらとリラックスしていた。なんなら頬杖をつき、ライバルたちの討論を冷めた目で見ていたほどだ。

なんて失礼なヤツだと思った。だが、同時におもしろいヤツだとも思った。

かく言う僕も実のところ、就活を通して出会う学生たちにはウンザリしていたのだ。

偉そうに聞こえるだろうが「こいつらとは見ている景色が違う」と感じてしまった。

片桐もそんな僕を見て、何か通じるところがあると思ったのだろう。帰りのエレベーターから最寄り駅まで向かう途中、声をかけてきて、僕たちは連絡先を交換することになった。

片桐はいまだに「先に声をかけたのは小暮だろ?」と言うが、彼の記憶力は信用ならないから、無視している。

その商社に関しては、二人とも不採用を告げられた。当然だ。

大手企業を見下した僕たちは、ただの天狗。あるいは井の中の蛙。いわゆる意識高い系のクソみたいな大学生だったのだと、ほどなくして気づかされる。

しかし問題は、その商社が超大手だったということ。

当時、まだ出会ったばかりの僕と片桐は、電話やファミレスで深夜まで話し込み、二人同時に反省し、二人一緒に心を入れ替え、就職活動に挑んだ。

そして晴れて、僕は他の商社から内定をもらった。片桐も、僕とは別の会社だがやはり大手商社に決まった。

僕と片桐のダメさを見抜いていた大手商社に肩を並べて、その二社はライバル関係にある。

だから僕たちの関係は、就活の時期だけで終わるのかと思った。

が、なんだかんだ、こうして10年経った今も、麻布十番で酒を酌み交わしているのだ。

どこへ行ってもエリート商社マン扱いされ、そして「とにかくその期待に応えなければ!」と思うことが多い中、彼と一緒にいるときだけは、素のままの自分でいられた。




乾杯してから1時間。

テレワークに関する是々非々の討論を終えたあと、片桐が唐突に話題を変えてきた。

「そういやさ、小暮さ、最近は舞と連絡とってる?」

「舞?」

「うん、舞」

4月の頭ぐらいに「最近どう?」と連絡したことを思い返し、僕はそれを伝えた。すると片桐は「それで?」と身を乗り出してくる。

「ステイホームが終わって落ち着いたら会おうね、って」

僕が答えると、再び彼は、「それで?」と畳み掛けるように尋ねた。

「だからそのうち会おうかなって思ってるけど」

「それだけ?」

「何だよ、さっきから」

僕は少々いらついた。

「それで?それで?それだけ?って何だよ。何が聞きたいんだよ」

「やっぱり舞は、小暮には何も言ってなかったか…」

深刻そうに溜息をついた片桐を見て、嫌な予感がした。

「アイツ、結婚するんだって」

ほら、やっぱりそうだ。僕の嫌な予感はだいたい的中する。

しかしとぼけたフリをして、もう一度聞き返す。

「…は?…今、なんて言った…?」

「舞、結婚するんだよ」

「…そっか。…おめでとう…だな」

僕はウソをついた。まったくもって、めでたくない。

「いや、全然、めでたくないだろ」

僕の心を見透かすように、片桐は言った。

「小暮は、舞が結婚しても、いいわけ?」

片桐は覗き込むようにしてこちらを見てくる。

―よくない!

心の中で僕は叫んだ。

―舞には結婚してほしくない!

もう一度、そう叫んだ。心の中なら、何度でも叫べそうだった。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
新卒から10年って事は、今32、3でしょ!?そりゃ結婚するよ!(笑)そんなに結婚して欲しくなかったなら5年位前から何かアプローチてしてないと!
2020/06/21 05:2799+返信2件
No Name
変な文章
片桐の言うことに、最後いちいち「…小暮」って付いてるのなんなんだろう。
2020/06/21 07:0930返信5件
No Name
あーあ、二人揃っての失恋だね💔笑

たしかに価値観というか人生観というか、それが似てると長い付き合いになりやすいよね。多分これからも付き合い続くよ。
お互いに良い友達を持ったんじゃないかな?
2020/06/21 06:1126
もっと見る ( 23 件 )

【東京バディ】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo