それまでは気にならなかった元カノの存在も、名前まで知ってしまったとなれば話は別だ。麻衣は、なんとか仕事に集中しようとするが、元カノの話を掘り下げたくて仕方がない。
見知らぬ女性が脳裏に浮かぶたびに必死で振りほどくが、やはりどうしても気になってしまい、ついにレナに尋ねた。
「レナさん、山内さんの元カノって…」
「私がつい余計なこと言ったせいだから、申し訳ないんだけど…。元カノのことは気にしない方がいいよ。
麻衣たちがどんな風に付き合ったのかはわからないけど、山内くんはいまは麻衣のことが好きなんだし、大丈夫よ。元カノなんて所詮過去のヒトなんだから。
麻衣も、元カレにはもう全く興味もないでしょ?」
「そうですけど…」
レナさんは美人だからそんな風に思えるんだ、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
麻衣のことは10人いれば6人は可愛いと思うだろうが、レナのように万人が美人だと判断するような顔立ちではない。
それに確かに、麻衣は元カレのことはもう思い出すこともなく、たとえ会ったとしても心が動くことはないと確信できるが、相手はどうかわからないではないか、と卑屈モードに入ってしまった。
―リコ、か…。
仕事を終え帰宅した麻衣は、ベッドの上でSNSの画面と睨めっこしていた。
インスタグラムのアプリを立ち上げ、虫眼鏡マークをタップすると、検索履歴のいちばん上には『kyotaro_yamauchi』の名前がある。
IDの隣には、誰かが海で撮影した京太郎の“イイカンジ”の写真のアイコンが並んでいる。
京太郎のアカウントの最終更新は3年前。友達と海に行ったときの投稿だ。今より少し髪が明るい25歳の京太郎。もう飽きるほど見た。
見るたびに、自分の知らない時間を生きていた京太郎に寂しさのようなものを感じてしまう。
それでも、暇があれば京太郎の過去を遡っている。
「インスタ始めました^^」の文字と共に投稿されている大学生の京太郎は、垢抜けていないちょっと不格好な髪型をしていて、でも麻衣にとっては愛おしかった。
ひと通り投稿を遡ったあと、麻衣は無意識のうちに、469人のフォロワーの検索欄に「riko」と入力した。
▶︎NEXT:6月15日 月曜更新予定
京太郎のフォロワーに“リコ”はいるのか…?リコの存在とは?
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