知りたくないのに、知りたい。
恋人と過ごす幸せな毎日に、突然あらわれた忌まわしい存在。
愛する恋人の過去を自分よりも知っている、妬ましい人。
「気にしなければいいクセに、どうしても気になる…」
これは“元恋人の影”に鬱々とする、男女の物語。
「麻衣の彼氏って、あの山内京太郎さん?ウチによく仕事振ってくれる代理店さんの?」
「実は、そうなんです…!」
青山にオフィスを構える小さなデザイン事務所『Lena』で、大森麻衣はデザイナーとして働いていた。
『Lena』は、代表のレナが28歳のときに独立して作った会社で、麻衣が働き出して5年目になる。
麻衣が美大生時代に、たまたま見つけた化粧品のパンフレットデザインに一目惚れし、調べたところ『Lena』に行きついたのだ。
「私も今の夫と出会ったのが26の頃だったから、ちょうど今の麻衣と同じよね。山内くん、まだ28歳なのにディレクターとしてすごく優秀だし、背も高くてかっこいいし、良いお付き合いになるといいね」
「レナさん、ありがとうございます!…でも私、ひとつだけ気になってることがあって」
「なに?どうしたの?」
麻衣はキーボードを打っていた手を止め、レナをジッと見つめる。
「山内さんと昨日の夜、デートしたんですけど。そのときにちょっとした事件が起きたんです…」
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