彼氏の元カノ Vol.1

「それ、誰の名前…?」付き合いたての彼氏に元カノの名前で呼ばれた女が、取った行動

それは、昨晩のデートでのことだった。

「麻衣、お疲れさま」

「お疲れさま。遅くなってごめんね」

京太郎は数分の遅刻は気にも留めない様子で、さりげなく麻衣の腰に手を添えて先を促した。

触れられたのはほんの一瞬だったのに、麻衣の頬は熱をもち、心臓がドキドキと音を立てる。

182cmという高身長には少し不釣合いな優しい顔立ちに、柔らかい口調と甘い表情。これまで何人の女性が心踊らされてきたのだろう。

「だいぶ日が長くなってきたね」

「うん、もうすぐ夏だね」

「オレ、夏が好きなんだ。今年はいろんなところ一緒に行きたい」

未来を連想させてくれる言葉に胸の高鳴りを覚え、麻衣は曖昧な返事しかできないでいた。

京太郎の行動や言動が、麻衣に“京太郎の彼女”という立場であることを認識させてくれる。

待ち合わせから入店、メニューを決めるのも、店員さんに注文するのも、京太郎は全てにおいて抜かりなくカンペキだった。

しかし食事が進み、付き合いたての時期特有の緊張感も緩まった頃、京太郎が思わぬミスをする。

「“リコ”は次、何にする?」

麻衣のグラスが空いていることに気付いた京太郎が、あまりにも自然に、麻衣の名前を呼び間違えたのだ。

2人はほぼ同時に、お互いを見た。ゆっくりと視線が絡まり合う。

「麻衣、ごめん。今のは忘れて。次、麻衣は何にする?」

京太郎の優しく、とろけそうになる笑顔からは「これ以上の質問は無用」のオーラが漂っていて、麻衣は浮かんでくる質問を全て飲み込まざるを得なかった。

しかし麻衣は“リコ”という女性が、京太郎にとって「自分に隠しておきたいような存在」であることを悟ってしまったのだ。


麻衣は昨晩の出来事を、すべてレナに打ち明けた。

「山内さんの前ではなんでもないフリをしたけど、ホントはものすごくツラくて。“リコ”って、元カノの名前じゃないかな~って想像しちゃったり」

その言葉を聞いたレナが、あからさまに目をそらすのを、麻衣は見逃さなかった。

「もしかしてレナさん、なにか知ってます…?」

レナは申し訳なさそうに、パソコン越しの麻衣を見る。

「その“リコ”って人、元カノだと思う…」

「え、どうしてレナさんが知ってるんですか?」

「私もそのリコさんと、知り合いなんだよね。山内くんって確か、ついこの前まで同じ会社の女性とお付き合いしてたみたいで…」

レナが語尾を弱めたのは、麻衣の顔からみるみるうちに表情が消えていったからだ。

「えっ、そうなんですか…?」

文字通り蚊の鳴くような声だった。

「変なこと言ってほんとにごめん。私の記憶も曖昧だし、あんまり気にしすぎないで」

レナも必死でフォローするが、麻衣の頭の中は“元カノ”の存在でいっぱいになる。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
とりあえず仕事中に恋愛話をしてるとこが気になったけど(笑) 彼氏にリコって呼ばれた時に『え、それ誰?』って聞けない時点で、対等な関係じゃないように思った。
2020/06/08 05:3599+返信7件
No Name
元彼女を検索してすごい美人が出て来たら、もっと落ち込みますよ。
2020/06/08 05:2290返信5件
No Name
なんか東カレ、Instagram漁る主人公多いなあ笑
2020/06/08 05:4875返信3件
もっと見る ( 54 件 )

【彼氏の元カノ】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo