7日後。
明子がいないことが日常になった部屋で、12時過ぎに目が覚めた。地方ロケからやっと解放されたので、今日から数日、休みに入るのだ。
「あいつ、意外と意固地なんだなあ」
そんなことをベッドの中でぼんやりとつぶやきながら、スマホを手に取る。
手持ち無沙汰ゆえに、この勝負に負けてもいいかなという思いが一瞬頭をよぎったが、すぐに払拭する。これは今後の人生を決める大事な戦いなのだ。
しかし、正直に言って寂しい。暇だ。
そんな迷いの中、LINEのトーク一覧を開き明子の名前を探した。
ーあれ、トーク履歴が消えてる。
慌ててスマホの電話帳を開く。それも彼女の名前ごと消えていた。
ー出ていくときに僕のスマホを操作して消したのか?
スマホはロックしているが、単純な番号だったので、一緒に住んでいれば手元の操作でわかっていても不思議ではない。
明子との連絡手段がないという事実に直面した敏郎は、ようやく明子の言葉が本気のものであるということに気付いたのだった。
飛び起きた敏郎はパソコンを開き、何かほかの連絡手段を探ろうと、彼女の名前をネットで検索する。
Google検索結果にも、Facebookにも『近藤明子』はたくさん存在していたが、敏郎の知っている明子はいなかった。
そもそも明子がSNSをしていることなど、聞いたことがない。
作った料理の写真を撮っているのは見たことがあるが、明子自身、これ見よがしにSNSにアップしていいねを集めるような、浅ましい承認欲求の持ち主ではないのだ。
しかし何かヒントはあるかもしれないと藁をもつかむ思いで、敏郎は様々なSNSに入りこみ、明子のかけらを探しはじめた。
明子の友達や家族、趣味嗜好。
探しながら敏郎は、3年も一緒にいたはずの明子について、何もわかっていなかったことに気付く。
自分の好きなものはみな好きだと言い、趣味にも付き合ってくれていたせいで、疑問にすら思わなかったのだ。
「あれ。このいいね、誰からだ…?」
そんな時、自分のインスタグラムの投稿に、見知らぬアカウントの「いいね!」がついているのを見つけた。
親しい知人に勧められて始めたはいいものの、一切使っていなかったインスタグラム。アイコンはデフォルトで、投稿自体もロケ先で撮影した、何の変哲もない伊豆の海の写真である。
内輪にしか教えていないので、反応をくれたアカウントも誰かは大体特定できる。旧友、仕事で関わった芸能関係の人、グラビアアイドル、社内の先輩や同僚。
そんないいねの中で唯一、誰のものか全く想像できないアカウント。
呪文のような『@emodaw_sihrtoa』というユーザーネームに、ワインボトルのアイコン。
第六感に似た予感にとらわれ、それをクリックする。
するとそこには、見覚えのある手作り料理と、見たこともないレストランの写真が並べられていたのだった。
▶Next:6月8日 月曜更新予定
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この記事へのコメント
こんな情緒も謙虚さもない男性が、今後いったい彼女の何を知るのか興味はあるけど、とりあえず私はこういう人イヤだな!