結婚相手を見つけるのは、決して容易なことではないだろう。
仮に運良く生涯のパートナーに出会えても、結婚生活が常に平和とは限らない。他人同士が夫婦になるのだから。
だけどもしも、AIがあなたにぴったりの相手を選んでくれたなら…?
ここは、2030年の東京。深刻化する少子化の打開策として、なんと政府は「お試し結婚制度」の導入をした。
3ヶ月間という期間限定で、見ず知らずの男と「お試し夫婦」生活を送ることになった真帆の運命は…?
「ついにお試し結婚制度がスタートしますね。国が婚活市場に介入とはビックリですが、どうですか?」
「わたし今年34歳なんで、対象外なんですよ。ホント悔しい〜!」
朝の情報番組で、独身の女性タレントがわざとらしく体をくねらせている。今朝は、どのチャンネルもこの話題で持ちきりだ。
私も、起きるや否やテレビをつけ、食い入るように画面を見つめていた。
なぜなら今日は、結婚適齢期と呼ばれる人たちにとっても、そうじゃない人にとっても、注目すべき画期的な制度が始まる日だから。
そう、2030年6月1日。今日、日本で世界初の『お試し結婚制度』が導入されたのだ。
都心部を中心に日本の晩婚化はますます進み、結婚を選択するよりも生涯を通して持続可能な働き方を優先する男女が増えている。
専業主婦になりたいという女性も公にはほとんど聞かなくなり、1人で生きていく術を身につける講座や、女性の起業セミナーが、当然のように日々、開催されていた。
そんな中、深刻化する少子化対策として、政府は『お試し結婚制度』を導入したのである。
「お試し結婚、かあ…」
テレビを見ながら、小さな声で呟く。
私、柚木真帆も結婚していない独身女性の1人。国からしたら、さっさと結婚して子供を産んで欲しい対象だろう。
男女共に30歳まで独身でいると、誕生日に合わせて『お試し結婚』の案内が届くそうだ。
導入初年度である今年は、あくまで試験段階。その結果を見た上で、今後対象年齢をどこまで広げていくか検討していくという。
だが現段階では、30歳を超えている人は対象外だから、さっきのタレントは悔しがっていたのだろう。
アンケートと性格診断、顔と全身写真によってAIがぴったりな相手を選出してくれ、3ヶ月間、国が管理するマンションにて生活する。
その間の家賃と光熱費は、国が全額負担してくれるらしい。
そして、3ヶ月後に婚姻届が送られてくる。その後2人で住むのか、同棲生活を解消するのかを決めるのだ。
申請するかしないかは個人の自由だが、とにかく結婚したい男女にとっては、都合の良い制度といえるのかもしれない。
「そうは言っても、私には必要ないけどね…」
私が余裕でいられるのには、理由があった。
この記事へのコメント
区役所からの通知が郵便、というのはアナログ過ぎるかもね。