ひも結び Vol.11

「一緒にいたら、ダメになる…」熱烈に愛した男に暴言を吐いた、女の決意

心の安らぎのため、人は愛を求める。

しかし、いびつな愛には…対価が必要なのだ。

―どこへも行かないで。私が、守ってあげるから。

これは、働かない男に心を奪われてしまった、1人の女の物語。

◆これまでのあらすじ

31歳の川辺望美は、役者志望のヒモ・ヒデを飼うことで過去の恋のトラウマを癒やしていた。無職だったヒデは役者として成功しかけるが、共演女優に嫉妬した望美はヒモに戻ることを要求。

そのせいで破局を迎えてしまうのだった。


仮面のように貼り付けた笑顔のせいで、頬が引きつりそうだ。

望美は、産休を目前に控えた鈴木と、そしてあの上岡と、3人で打ち合わせをしていた。

「じゃあ、上岡さん。そちらフィンテック事業部との電子決済サービスの件については今後、川辺さんと進めてください」

鈴木はそう言って、大きなお腹を抱えながら会議室を後にしてしまう。しっかりと扉が閉じたことを確認すると、今にも痙攣しそうな表情筋の緊張を、ようやくほどいた。

「不安?」

鈴木の前で同じく他人のふりをしていた上岡が、馴れ馴れしく声をかける。その態度に望美が疎ましげな視線を向けると、上岡はなおも言葉を続けるのだった。

「いや、なんだか無理してそうだったからさ。心配してるだけ」

「別に、そんなことありません」

冷静な口調で望美が言うと、上岡は可笑しさを噛み殺したように「そう?なら良かった」と返事をする。

「まあ、何も心配することないよ。基本的には僕が進めていくから、望美は何もしないでのんびりしてくれればいい。それより、“あの返事”の方を考えておいて」

その言葉を聞いた望美の胸が、思わずぎゅっと締め付けられる。

「会社で望美って呼ばないでください。それに、仕事のこととプライベートのことは完全に別です。何もできなくていいなんて、失礼ですよ」

動揺を取り繕うかのように、望美は強い口調で言い捨てる。

そして、慌ただしくラップトップを片付けると、上岡の視線から逃れるようにその場をあとにした。

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