2020.04.10
男子校男子 Vol.1香菜と名乗る女は、ぺこりとお辞儀をして僕の横に座ってきた。他の女子とは違い、優しげな色で統一された服に白のシンプルなバッグ。
「こういう場所、慣れてなくて」
「俺も。麻布十番なんてたまに来るくらいだよ」
薄ピンクの柔らかそうなニットから覗く、華奢な鎖骨に思わずドキッとする。
「実は私リテールやってて、同業者なんです…」
どうやら香菜は日系の大手証券会社でリテール営業をしているらしい。毎朝の日経新聞の読み込みに外回り営業。部門や会社は違えど、同じ証券業界ということもあり、気がつけばお互いの仕事の話で盛り上がっていた。
体力的にも精神的にもタフさを求められる環境で、見た目の印象とは裏腹に粘り強く努力を重ねているようだ。
「支店で働いている私からすると投資銀行って華やかなイメージがあったんですけど、実情は泥臭いんですね」
香菜はくすっと笑った。
食事会にくる女たちはどうせ肩書き狙いだと諦めていたが、彼女は見た目も可愛い上に仕事にも真剣だ。
気がつけばシャネルの女と同期が肩を組みながらカラオケを熱唱している。もう1人の同期はヴィトンの女とお手洗いに行くと出ていったまま、帰ってくる気配がなかった。
「良かったら今度一緒にご飯でも行かない?」
こくんと、恥ずかしそうに頷く香菜。
付き合うなら見た目や肩書で判断しない、素直で優しい女の子がいい。僕は先輩に教えてもらったデート向きのお店を頭の中でリストアップしていた。
香菜の正体
六本木の高級レジデンス。
大理石の玄関でマノロ・ブラニクのパンプスを脱ぎ捨てる。
私はお食事会を終え、欧州系投資銀行で働く彼氏のマンションに帰ってきた。
彼は激務とパワハラに3年間耐え抜いてきたが、最近は睡眠薬を飲んでも眠れないと言っている。
「ごめん、俺はもうダメかもしれない」
今朝もそう言い残し、会社へ行ったまま帰ってくる気配はない。
私は女子大の英文科で一緒だった同級生2人と、外銀マン相手のお食事会をこなしている。
優良株でポートフォリオを組んで、もしもの時の暴落に備える。
-男だって、株と同じ。1人の男に集中するのは危険だ。
だけどこの前、丸の内にある投資銀行のディレクターのバースデーパーティーに参加した時、ジュニアの男の子たちが「あの女、元カレ全員がうちの業界らしい」と友人の話を耳打ちしているのを聞いてしまった。
狭い業界ゆえに、すぐに噂がたってしまうことは分かっている。
だからこそ、派手でパーティー好きな2人とは違い、私は地味専と決めている。それに外銀マンはモテるからすぐに女を見る目が厳しくなる。だから目が肥えていない若手を狙うに限る。
きっと良昭くんは彼氏にねだって買ってもらったValextraのバッグとサマンサタバサの違いなんてわかってないんだろう。
ーそれにしても、リテール話への食いつきよかったな。
社会人になってからの食事会では、仕事の話をするようになったからか、若さだけが取り柄だった大学時代よりも確実に手応えを感じている。
「香菜は絶対リテールに行った方がいいよ。人当たりもいいし、ガッツがあるから売れると思う」
就活で大手メーカーの一般職と証券会社のエリア総合職に内定した時、良昭くんと同じ会社のトレーダーだった元彼に言われた言葉を思い出す。
ーブルル。
良昭くんからLINEだ。長文のお礼と共に、次回のデートのお店が送られてきた。
西麻布の和食。ここは外銀男子と訪れるのは3回目になるけど、新卒3年目の男子の提案にしては合格点かな。まあでも、このチョイスは絶対会社の先輩に教えてもらったんだろう。
太い眉毛が印象的な野暮ったい彼の顔を思い出す。食事相手のポートフォリオになら入れてやってもいいかも。
そういえば良昭くんは中学から早稲田だと話していた。
ーきっと、昔から冴えない真面目くんだったんだろうな…。
あーいうタイプは、社会人になってから女子アナとかCAとかわかりやすい肩書がある女子を手に入れたいと思うタイプと、真面目な清楚系女子を好むタイプにわかれる。
私が遅れて入ってきた瞬間の彼の表情をみて、すぐに後者だとわかったから隣に座った。
窓の外に広がる煌々と明かりの点いた六本木の夜景に背を向け、丁寧なお礼とうさぎのスタンプを返すと1人ベッドに潜り込んだ。
▶Next:7月31日 金曜更新予定
「僕は何者でもない」海陽学園卒・モラトリアム御曹司の憂鬱
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
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